結婚しよう、とプロポーズされるまでに時間はかからなかった。彼女は花嫁としての体面を気にしてスナックを辞め、保険会社の外交員となる。
ところが、結婚直前に、SMクラブにはまっている(マゾだ)ということを告白される。
彼は「浮気ではない。悪いことではない」と自分の性癖を正当化し、彼女も「愛しているんだから受け容れなくちゃならない」といったんは我慢しようとするのだが、どうにも我慢できなくなり、「もう、SMはやめる」と彼に宣誓させて婚姻関係を結ぶことを決意する。
一九九六年、結婚。
しかし、四ヵ月後に、やはりSMクラブに通っていることが発覚する。
家を飛び出して姉の家に世話になったが、やり直そうという彼の提案に応じて話し合い、「仲直りをした」夜に妊娠してしまう。
一九九七年、長女誕生。
ほんとうは長女を保育園に預けて職場に復帰したかったのだが、「お金を搾り取らないと、SMクラブに行ってしまう」と思い、夫から渡される月々二十万で生活をする専業主婦の道を選ぶ。
泣く長女の頭を
スプレー缶で殴りつけた
彼女は、完全母乳で子どもを育てた。
長女は夜泣きなどの問題がない育てやすい子どもで、「離乳食への移行も、すんなりとクリアできた」という。
最初の違和感は、長女に後追いされたことだった。夜、トイレに行ったときに、長女が布団から抜け出し、ハイハイで追いかけてきたのだ。怖くなって、母親に電話をすると、「昔はオンブして家事もやったんだから」と、まともに取り合ってくれなかった。
初めて手を上げたのは、長女が歩きはじめた一歳前後のときだった。
長女をチャイルドシートに乗せて自転車を漕いでいると、長女がハンドルに引っ掛けていた傘を車輪に突っ込んでしまった。傘は折れた。まだ使っていない新品の傘だった。自宅に帰った彼女は、長女を叩いた。いくら叩いても収まらない怒りに恐怖をおぼえた彼女は、夫の会社に電話をして、「殺しちゃうかもしれないから、すぐ帰ってきて!」と訴えた。仕事を中断して帰宅した夫は、「傘なんて、また買えば済む話じゃないか!」と彼女を責め立てた。