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続・児童虐待
わたしに似すぎている彼女は、 子どもを児童相談所に奪われた

柳美里

「テレビの映像のように」憶えていることがあるという。
家計は常に火の車だったために、母親は内職をしなければならなかった。彼女が五、六歳のとき、母親が庭先で木を削っていると、帰宅した父親が、縁側から母親の頭を蹴りつけた。自分の稼ぎで遣り繰りせずコソコソと内職している妻が許せない、という理由だった。
もう一つの映像も同じころだ。父親に殴られて机の下に逃げ込んで泣いていると、「いつまで泣いてるんだ! 泣くなッ!」と、大工道具の大きな物差しで滅多打ちにされる―。泣くことは痛みに対する当然の反応であるにも拘らず、父親はさらなる折檻によって痛みを禁じたのだ。

彼女が中学三年のときに、父親の会社が倒産し、父親は家族を残して蒸発する。
しばらくして、福井の実家に帰っていることが判明し、家族は福井に転居することになる。
彼女は地元の工業高校を卒業すると同時に上京し、板橋区の会社(総務課の事務職)に就職する。
二十一歳のときに最初の妊娠をする。
相手は社内の男性だった。
彼女は、好きなひとができて付き合ったら結婚する、という漠然とした目標を持っていた。
妊娠と結婚のことを社内の先輩に相談すると、「え? 彼ってあの子と付き合ってたのに……」と社内の女性の名前を告げられ、ショックを受けて混乱した彼女は、剃刀で手首を切って自殺をはかる。

結局、その男性とは別れ、中絶手術を行い、僅か二年半で東京を去ることになる。
彼女は「父親に連れ戻された」と言う。
「直接は言ってないんですけど、まわりまわって父の耳にはいったんです。父は、娘たちにそういう問題が起こると、獲物を見つけたハンターみたいに飛んでくるんですよ。長女が結婚して問題が起きたときも、とにかく首を突っ込んでくる。世話を焼くっていうよりは、揉め事に血が騒ぐっていうか、不幸話が大好きなんですよ」
そのころ、父親はタクシーの運転手をしていた。
ふたたび両親の家で暮らしながら、職業訓練校で一年かけて簿記とワープロの技術を身につけるが、「アルバイトだったり、正社員だったり、事務だったり、営業だったり」と転々と職を変え、スナックでバイトしていたときに、三つ歳上の客(電気の配線工)と付き合うようになる。

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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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