身長191センチの巨体が会場に現れた。初来日のムーア監督は終始、上機嫌。ただ、空港で衣類の入った荷物が積み残されるトラブルに見舞われ、急遽(きゅうきょ)、力士御用達の店で調達した服を着ての登壇となった。その航空会社名が「最初がJで最後がL」と話し、場内は爆笑の渦に。日本の印象について「フレンドリーでナイス」と言いつつも、税関で生涯初の指紋押捺(おうなつ)を要求されたことに不快感を示し、「それ以外はグレート」と語った。
この日のムーア監督は“舌好調”で、東証での会見について「ニューヨークの証券取引所は立ち入り禁止なのに、すんなり入れて驚いた。それも指紋押捺なしに」。また今回の映画に関連して「日本で医療費が払えなくて自宅が差し押さえになった人を知っていますか?」と報道陣に語りかけ、「アメリカは7秒半に1軒の割合で差し押さえが行われている。私は本当にアメリカを愛しているが、なぜ母国だけがこんな状態なのか。それを追及することが私のテーマです」などと熱弁をふるった。
ゲストには、個人的に株取引をしているタレントの小倉優子が登場。ムーア監督に花束を贈呈し、映画について「私みたいな若い人にもアメリカ経済が分かりやすく描いてある。いろんな所に行こうとする(突撃する)監督がかっこよかった」と話した。
ムーア監督に「(鳩山)首相についてどう思う?」と逆質問された小倉が「私はすごく好きですね」と答えると、さらに監督は「お母さんから10億円もらったらどうしますか」と質問。鳩山首相が実母から受けた多額の献金を政治資金収支報告書に報告していなかった問題を巧みに会話に取り入れるあたり、さすがムーア監督といったところだ。
最後に今年88歳の父親が第二次大戦に従軍していたことを明かし、「幸いにも戦争から生還したので僕が生まれた。ブッシュ前大統領がなぜイラクやアフガニスタンを戦争に巻き込んだのか。それは彼自身に戦争経験がないから。もし戦争について知っているならば二度と繰り返したくないと思うはず。日本は60年間平和の旗手だった。とても尊敬しています」と締めくくると、会場から拍手がわき起こった。
「キャピタリズム」は、リーマンショックによる経営破綻(はたん)が市民に及ぼした影響を描きつつ、金融危機の元凶である投資銀行や保険会社に公的資金が投入され、役員に多額のボーナスが払われたことに疑問を感じたムーア監督がウォール街に突撃する姿を追っている。12月5日に東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田で先行公開され、来年1月9日に全国公開される。