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社会

オウム事件14年目の「洗脳」談義


<対談>麻原彰晃四女・松本聡迦×脳機能学者・苫米地英人【2】



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1995年3月20日に起きた、未曾有の
無差別テロ「地下鉄サリン事件」。洗
脳された信者たちが、殺人マシンとな
った。

【1】はこちらから。

●私自身も強い洗脳を受けていると思いました

 私は、中学校に上がった頃から事件にかかわった元幹部の人たちと面会をするようになったんですけど、その中で彼らには2つのパターンがあるような気がしたんですよ。本当に洗脳されきっていて、不可抗力で事件に加わった人と、自分で考える力がまだ残っていたけど、さまざまな欲望が相まっててやってしまった人です。

 80年中頃までの、ヨガの団体であった「オウム神仙の会」のとき入信した人たちは、どっちかというと、「麻原尊師」というより、「麻原先生」という感じでの付き合い方だよね。

 はい、そうですよね。

 確かに洗脳って、いま言ったような2レベルあって、オウムでいえば、末端信者にされているような、行動から思考まで完全にコントロールしちゃうようなレベルの洗脳と、自分自身の思考が残っている中で、神秘体験──実際には、ヨガや修行による過呼吸、LSDなどの薬物で生じる幻覚──や権力という快感にとらわれて、第三者が思い描く方向に動かされてしまっているようなレベル。まぁ、俺がよく言っていることだけど、日本人はすべて、ごく一部の人間に都合のいいようにできた資本主義というシステムを素晴らしいものだと洗脳されて生きているよね。これは後者だよ。一方、サリン事件の実行犯は前者。だから実行犯は、かわいそうといえば、かわいそうだよ。いちばん問題なのは、それを仕掛けた側の罪が問われず、のほほんとしていること。俺はその中に、上祐だったり、元幹部のIが入ると思っている。

 そうですよね。ただ、苫米地さんの本を読んで、自分も強い洗脳は受けていたと思いました。

 俺の本のどこを読んでそう思ったの?

 全体的に思いましたけど、特に「アンカー」という概念が自分自身の経験と合致して、すごく納得できました。

 アンカーっていうのは、記憶の中に植え付けられてしまう「いかり」のようなものだよね。本人は無自覚なのに、「トリガー(引き金)」と呼ばれる特定の条件が加わると、アンカーが表に出てきてしまう。オウムの場合で有名だったのは、教義に疑念を抱くと、体が震えだすというアンカーを信者に埋め込んでいたりしたこと。この場合、疑念を抱くということが、トリガーになるわけ。聡迦さんの場合は、どんなアンカーを?

 オウムの真理とか父とかに逆らうくらいだったら、死んだほうがましだという考えを起こしてしまうことは、苫米地さんは本の中で「一部の幹部に」と書いていましたが、きょうだいやたぶん母も植え付けられていたと思います。ほかに、子どもにだけ植え付けられたアンカーもあると思います。

 それはどんなもの?

 「あなたたちは現世(オウム以外の社会)で生きたことがないんだから、常識を知らないし、絶対生きていけないから、オウムの中で生きていくしかない」というものです。

 教団の外には出さない、社会の価値観に染めさせないということだね。

 それを姉たちも私も弟たちもみんな植え付けられているので、仕事に就いたとしても、トリガーとなる何かのきっかけで、それが蘇ってきちゃって、不安になって仕事が続けられないんですよね。

 それは大丈夫。アンカー、トリガーを外していくための基本的な考えは、嘘は信じなくていいってこと。何度か出していくと、自然に弱まるしね。だからそういうのが出てきちゃったら、逆に出てきて良かったと思えばいい。「あっ、これはアンカーの影響だ」と思えるようになれば、大丈夫。気がついていないから、アンカー、トリガーって効くの。まぁ、オウムに限らず、日本の親はみんな自分の子どもを洗脳しているんだよ。俺だって大学行くまでは、銀行マンの父親の影響で、「銀行業に身を置いて、生きないといけない」って思い込んでいたんだから。今は逆に銀行を、資本主義社会を支配する悪の権化みたいにぼろくそ言っているけどね。だからそれは、どこの家庭でもそうだよ。親は子どもを自分の知っている環境や価値観の中に置きたがる。麻原家の場合は、教団の外に出すことが大きなリスクになるからね。

 こういうところで何か教団について批判的な発言したりとか、そういうときほどアンカーが出てきそうで危ないんですよ。精神状態が不安定になって、死にたくなるというか。家出をしてから、昨年、テレビ局の取材を受けていた前後がいちばん危なかったですね。本当に(死を求めて)湖まで行きましたからね。

 でも、それを自力で乗り越えたんだから、がんばったよ。元幹部のUは、俺が脱洗脳を始めた2日目あたりにそうしたアンカーが出てきて、自殺は教義で禁止されているから自分で死ねないじゃない。でも法をもう守れなくなったから死なないといけないと思って、「山林で死ぬまでさまよい歩こうと思いました」って。

 何がトリガーになっているかわからないと言いましたが、「オウムで生まれ育ったんだから、社会で生きていけるはずがない」とか、「警察とか公安調査庁だとか、国家も社会での生活を許すはずがない、だからオウムの中で生きていくしかないんだ」というアンカーに関しては、警察とかが訪ねてきただけでトリガーになってしまうし、あるいは「常識」とか「社会性」とかそういう言葉を聞いただけでもトリガーになってしまいました。

 大丈夫、それもみんな嘘なんだから。まず疑うことだよ。
【3】へつづく/構成=桜のりか/「サイゾー」4月号より)


●苫米地英人(とまべち・ひでと)
1959年生まれ。脳機能学者・計算言語学者・認知心理学者・分析哲学者・実業家。83年、上智大学英語学科卒業後、三菱地所に入社。85年、イエール大学大学院に留学。同大学人工知能研究所研究員、認知科学研究所研究員を経て、88年、カーネギーメロン大学大学院に編入、計算言語学の博士号を取得。帰国後、徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長などを歴任。95年に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件後、公安の依頼により、同教団信者の脱洗脳を手掛ける。近著に『成功脳の作り方』(日本文芸社)、『営業は「洗脳」』(サイゾー)、『苫米地式コーチング』(インデックス・コミュニケーションズ)など。


●松本聡迦(まつもと・さとか/仮名)
1989年、松本智津夫(麻原彰晃死刑囚)の四女として生まれる。6歳のときに地下鉄サリン事件が起きるも、外部の情報から遮断されていたため、事件のことを知ったのは15歳のとき。その後、教団との関係を保つ家族のあり方に疑問を抱き、16歳のときに家を出て、後見人(後に辞任)となった江川紹子氏の元に身を寄せる。07年夏、同氏の元から離れて以降、派遣会社で働いたり、ネットカフェ難民やホームレスをしたりしつつ、現在は自立した生活をしている。昨年6月号より、本誌で告白手記を掲載。きょうだいは、姉3人、弟2人。


「A」―マスコミが報道しなかったオウムの素顔


取材報道に問題はなかったか。


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2009.03.19 木   はてなブックマーク BuzzurlにブックマークBuzzurlにブックマーク livedoor クリップ みんトピに投稿 newsing it! この記事をChoix! 友達に知らせる Twitter