「夜も眠れなかった」‐。人を裁くという重責の中、裁判員6人が宮崎地裁の裁判官とともに出した、宮崎県初の裁判員裁判の“答え”は懲役5年(求刑懲役6年)だった。現住建造物等放火の罪に問われた渡部実被告(47)の判決が言い渡された19日、裁判員6人は会見で審理や評議での葛藤(かつとう)や判決・説諭に託した思いを打ち明けた。裁判官、検察官、弁護人の法曹三者も「常識力が発揮された」などと、裁判員の率直な意見や質問を評価した。
6人の裁判員は、判決の言い渡しを終え、宮崎市内で会見した。
責務を果たした感想を尋ねられると、30代のパート従業員の女性は「右も左も分からず緊張しっぱなしだった。ほっとしてます」。50代の主婦も「選ばれるとは夢にも思わなかったが、いい経験をさせてもらった」と表情をほころばせた。
審理中の心理的負担については、一人の女性が、その重責から「本当はやりたくなかった。被告の顔が浮かび、昨夜は食事ものどを通らなかった」と涙ながらに語る場面も。しかし、評議の雰囲気は裁判員が全員女性だったため「知らない者同士でもなごやかだった」(34歳女性)。「裁判官も気遣ってくれて安心して評議ができた」(60代主婦)という声もあった。
市民感覚が裁判に生かせたかという質問に、30代のパート女性は「宮崎に暮らす人間としての意見を聞いていただけた」と話した。刑の重さは「被告の性格などの人間性」(60代主婦)などを重視したという。
判決言い渡しにあたっては、裁判員が全員で被告へのメッセージを考え、裁判長の口から伝えられた。
一日も早く社会復帰できるよう努力して下さい‐。
30代の女性は「更生して、これまで以上の充実した人生を送ってほしいという思いが全員にあった」と、メッセージに込められた意図を語った。
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■判決要旨
宮崎地裁の裁判員裁判で19日言い渡された放火事件の判決要旨は次の通り。
住宅密集地での犯行は、延焼して多くの人の生命や財産を損なうなど、重大な結果をも招きかねない危険性の高いものである。被告は灯油を使用して確実に燃える方法を取っており犯意は強い。
被告は自首時に「会社から寮を出て行けと言われ、火を付けてやろうと考えた」と述べており、会社へのうっぷんが動機の一つと認められる。弁護人は、会社に対するうっぷんはなかったと主張するが、採用できない。
足の痛みや、仕事の減少、家賃滞納などで将来に対する不安を抱き、投げやりな気持ちになったことが、動機の大きい部分と認められる。動機や犯行に至る経緯は、身勝手で酌量の余地はない。
=2009/11/20付 西日本新聞朝刊=
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