裁判員裁判2日目宮崎地裁
宮崎地裁(高原正良裁判長)で開かれている県内初の裁判員裁判は18日、2日目の審理があった。現住建造物等放火罪に問われている宮崎市、無職、渡部実被告(47)に対する被告人質問や論告求刑・最終弁論があり、結審した。裁判員による被告人質問では、どういう気持ちで火をつけたのか、火をつけた後はどういう気持ちだったのか--といった質問も出た。閉廷後の午後4時から裁判官と裁判員が量刑などを決める評議をした。判決は19日午後3時に言い渡される。【小原擁、川上珠実】
■検察側■
「実際に自分の家で火事が起きたことを想像していただければわかると思います」
放火の危険性について説いた検察側は懲役6年を求刑した。
論告で橋本映司検事は「現住建造物等放火罪」について「人が住んでいる家に火をつけることで、法廷刑は死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役」と説明し、「人が焼け死んだり、その家の人だけでなく、周辺の人にも危険が及びます」と語りかけた。裁判員はモニターから顔を上げ、3は何度もうなずきながら聴き入った。
量刑で考慮すべき事情として、(1)危険性が高い(2)住人らの処罰感情が厳しい(3)動機に酌量の余地はない(4)自首が成立するが、容疑者は被告人しか考えられず、刑を軽くする理由にはならない--の4点を挙げた。
また、被告人質問で動機を問われた被告は「これで何もかも終わりにすれば……。そういう感じで」と言葉を詰まらせた。
検察側は動機については「将来への悲観と会社へのうっぷん晴らし。2つの動機により放火したことは明らか」と述べた。
■弁護側■
午後3時23分から始まった最終弁論。塩地陽介弁護士が証言台の横に立ち、裁判員を見た。
「長い審理お疲れさまです、もう少しお付き合い下さい」と声をかけた。そして「弁護側は懲役4年が相当だと考えます」と訴えた。
「会社へのうっぷんがあった」とする検察官の主張に対し、(1)会社に恩義を感じていた(2)自室放火は不自然--の2点を根拠に、「うっぷんはなかった」と結論付けた。弁護士は6人の裁判員たちの顔を見回しながら、身ぶり手ぶりで語った。
「社長は証人尋問で家賃督促は『頑張って働けという意味だった』という話をした。(被告の)だらしない勤務態度でも雇い続け、10年以上の付き合いで会社をうらんで火をつける事情はない」とし、動機の一部については捜査段階での供述調書との違いを指摘した。
また被告人質問で、「(会社に)うらみがあったのか」と問われた被告は「ありません」と否定。火をつけた理由については「足が痛くて仕事をやれる自信がなく、アパートも出ていかなければならなくなると考え、終わりみたいな気がして、火をつけるしかないという状況になった」などと述べた。
■裁判員一問一答■
裁判員による被告人質問は午後2時24分から始まった。初日の証人尋問では質問が一つしか出なかったが、この日は3人の裁判員からかなり突っ込んだ具体的な質問も出た。
以下一問一答
--裁判員2 犯行時に酒を飲んでいたのか?
◆渡部被告 いいえ。
--同2 1滴も? ◆はい。
--同2 お酒、たばこ、パチンコをやめようと思わなかったのか?
◆お金がないから(最近は)していない。
--同2 火をつける時、他の人に迷惑をかけると少しでもためらわなかったのか?
◆別に……。というか何も考えていなかった。
--裁判員3 火をつけた後、コンビニで酒とたばこを買った時はどういう気持ちだったのか?
◆気分を落ち着けようと思った。気分良くはならなかったが、落ち着いてやったことを考えられるようになった。
--同3 たばこは1日に何本くらい吸うのか?
◆15本くらい。
--同3 やめようと思ったことはないのか?
◆たばこはありません。
--同3 食事を切り詰めても、やめようと思ったことはなかったのか?
◆1~2カ月前から買っていなかった。人からもらうことはあった。
--裁判員5 5月に病院に行った時の診断結果は?
◆受け付けまではしたけど、お金がなかったので診察まではしていない。
--同5 薬はどこでもらったのか?
◆(病院内の)緊急手当てをする窓口でもらった。お金は払っていない。
--同5 仕事が面倒くさいなという気持ちで休むことはなかったか?
◆面倒くさいということはなかった。
--同5 だんだん空回りしていって今回の放火になったように思うが、一番の原因は何だと思うか?
◆仕事もなくなり、食事も取れなくなり、考えが回らないようになった。何となく追い込まれていった。
--同5 確認だが、放火する時は何も考えなかったということか?
◆そのときはそうだと思う。
弁護側の主張と相違があるが、大幅に量刑に反映すべき点ではないと考える。放火という行為の持つ危険性を理解してもらえれば。裁判員の質問をきいて、どんな点に関心を持っているのかわかって興味深かった。
「たばこをやめなかったのか」などという裁判員の質問は想定外で、なるほどと思った。裁判員に議論は聞いてもらったし、思いはぶつけたので後は裁判員の判断。限られた時間の中で審理は尽くした。
毎日新聞 2009年11月19日 地方版