保育園で行われた新型インフルエンザワクチンの集団接種=東京都江東区東雲1丁目
新型の豚インフルエンザのワクチンを求めて鳴りやまない電話に、殺到する希望者――。開業医に予約の問い合わせが集中している。負担軽減のため、地域の医師会や自治体が希望者を1カ所に集めて集団接種する取り組みに乗り出した。しかし、肝心のワクチンがないケースや、取り組みが遅れている自治体もあり、混乱している。
東京都世田谷区の主婦(40)は11日、長男(3)のワクチンの予約に奔走した。
かかりつけの小児科医院が接種を扱わないため、医療機関に電話をかけ続けた。16日から接種開始のはずなのに「まだ決まっていない」と次々に断られたが、5カ所目で「来れば、打てますよ」と言われ、ぜんそく持ちの母と一緒に接種を受けた。
医師からは「他の方には言わないで」と念を押された。
江東区の小児科診療所。21日の土曜日の診療開始前に、子どもの父親風の男性が3人、診療所の前に立っていた。「来たら何とかなるかもしれないと思ったようだ。尋常ではない。こんなことは初めての経験だ」と医師(52)。診療時間は電話が鳴りっぱなしだ。
別の医療機関は、「ワクチンが打てなかったら、タダじゃ済まないからな」と脅迫めいた言葉を投げられた。ある小児科医は「保護者が殺気立っていて、怖い」と漏らす。
小児科を中心に、接種にあたる各地の医療機関はどこも似た状況だ。昼休みや夜間帯、土日など、自らの休みを削り「予防接種タイム」を絞り出すが、肝心のワクチンは希望量に程遠い。届いても大きな瓶(バイアル)で使いにくい。開封したら24時間以内に使い切る必要があるので、一気に40〜50人分打てるよう調整に苦労する。「このままだと、小児科医がつぶれる。過労死も出かねない」。そんな声があがる。
「効率のいい接種を」。解決策として浮上したのが「集団接種」。保健所や医師会の施設、保育所などに数百人単位で集め、一度に接種する。
江東区医師会は4カ所の区の施設に、会員の医師と看護師、事務スタッフが出向いて打つ計画。井上仁会長は、「重症者を出さないため、少しでも早く、一人でも多くの子に打ちたい」と話す。
中央区医師会は23日、保健所に1〜6歳の約320人を集めて接種した。会員が未使用で予約のないワクチンを持ち寄り、量をひねり出した。
集団接種は各地で広がる。東京都小平市、大津市などで実施に向けて準備が進む。一方で、小児科医が求めても、医師会の腰が重く、人繰りのめどをつけられず、実現に至らないところもある。
混乱の一因には、10月初めの段階では厚生労働省が集団接種を積極的に勧めなかったこともある。同省は自治体担当者を集めた会議で、「(安全確保のため)基本的に個別接種で」と話していたが、今月6日、文書で集団接種の検討を求めた。11月中に医療機関に届けるワクチンの配分先を決めた後だったため、自治体や医療関係者から「もっと早く勧めていれば混乱は避けられた」「対応が遅い。1カ月もロスした」などの批判も出る。(熊井洋美、武田耕太)