時代と社会を相手に切り結んできた芥川賞作家が描く
著者初の本格ノンフィクション
第6回
柳 私の子供も、学校でかなり問題を起こしているんですよ。
長谷川 それは子供の訴えで、本質を見失ってはいけない。子供にどうしてあげたらいいかと母親として考えていくと、負のスパイラルに陥ってしまって、親子で疲弊してしまう。まず、自分だと思いますね。
柳 問題行動も、やっぱり私が原因なんでしょうか?
長谷川 原因であって、責任ではない。柳さんは、自らそういう母親になりたくてなっているわけではなくて、見えざる強い力によって、そういうふうにさせられてしまっているんです。それを跳ね返してやろうじゃないかという方向に向かわなきゃいけない。私のせいで子供がこうなった、と考える発想には、もう振り回されてはいけない。学校からそういう情報ばかりがはいるっていうことは、その学校の先生たちが虐待の世界の難しさを理解していないことを物語っています。そのような好ましくない情報を保護者にフィードバックすることは、教育的に見ても逆効果です。
柳 でも学校としてはすごく困っているというか、例えば、みんなが大事に育てている畑の作物を引き抜くとか、器物を破損するとか、窓から墨汁を流して校舎の壁を汚すなどという事件を絶え間なく起こしているんですよ。
長谷川 その子はそういう形で、先生たちにSOSを出しているんですよ。さらに先生たちは、どういう環境で育ってきたかを、既に知っているんですよ。プロの教育者として必要な姿勢は、その子に対するケアと、その子の母親である柳さんに対するケアなんです。そういう発想が乏しいから、「母親でしょ、なんとかしてください」とか、「病院に行って診てもらってください」などと、すぐに言ってしまう。
柳 ADHD(注意欠陥・多動性障害)ではないかと言われました。
長谷川 ADHDにも三つのタイプがあります。先天的なもの、それから先天的なものに環境が加わったもの、さらに、純粋に環境要因によるもの。どれも症状としては似ています。一番多いのは、二と三かもしれませんね。ある発達障害の専門家は、環境要因によるものを、第四の発達障害と呼んでいます。環境要因によって発達障害様の症状、ADHDの症状が出るんです。
柳 長谷川さんのお考えだと、息子のADHDは、環境要因によるものだということですか?
長谷川 多分そうだと思いますね。