アートディレクターの佐藤可士和氏が手掛ける広告やデザインに、熱い視線が注がれている。次々と話題作を生み出す秘けつは、徹底した“聞く作業”だ(「プレジデント」)▼自分が捻出したイメージを相手に当てはめるやり方に行き詰まっていた時、新車の広告を任された。それまでと異なり、依頼主のやりたいこと、言いたいことを徹底的に聞いた。そうして作った広告は数々の賞を獲得し、車も大ヒット。以来、仕事の姿勢が変わった▼ただ聞くだけではない。言葉に込められた思い、心の奥に秘めた願いをくみ取る。その心掛けが対話を実りあるものにする。互いの信頼の絆を強くする。「聞き上手」とは言い得て妙だ▼聞くことを軽視しては、何事も成し得ない。「平和研究の母」E・ボールディング博士は語っている。「『平和の文化』とは、『人の意見に耳を傾ける』ことから始まります」「対立意見に耳を傾ければ、見えなかった本質が浮き彫りにされ、問題の核心をつかむことができます。聞くことは、平和の実践の美しい模範となります」▼“対話の秋”が到来した。新しい友との語らい、旧友との再会に心がはずむ。貴重な機会を有意義に――まず、じっくり聞くことから始めてみたい。 (馨)
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