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ITシステム、市職員が作る 沖縄・浦添市、コスト削減

2009年11月23日1時19分

写真:市役所でコンピューター作業を見守る廉宗淳氏(左)と上間泰治・浦添市情報政策課長=沖縄県浦添市市役所でコンピューター作業を見守る廉宗淳氏(左)と上間泰治・浦添市情報政策課長=沖縄県浦添市

 人口約11万人の沖縄県浦添市が、全国の自治体IT関係者の注目を集めています。同市が独自に開発した業務システムは効率的な上にコストが安く、問い合わせや視察の訪問がひっきりなし。同市はシステムの設計図を公開して、他の自治体に共同管理を呼びかけています。このIT改革の背景には韓国モデルがあります。

 コンピューターやインターネットで事務を効率化する「電子自治体」をめぐるビジネスは、大手メーカーの独壇場だ。自治体職員はほとんどシステム構築に加われず、高い買い物になっても自治体側は文句を言えない。

 こんな状態を浦添市の新システムは打ち破った。市役所の職員とメーカーの社員が相談しながら構築。今年3月に稼働した、地方税や国民健康保険、年金などの「基幹系」と呼ばれるシステムの発注価格は約8億円で、実質的に従来の半分以下で済んだ。

 それを可能にしたのは、06年から2年かけて実施した市役所の業務の見直しだ。余計な手続きが減ればシステムはそれだけ安くなる。「なぜ、ここでその作業が必要か」。コンサルタント会社の社員が市の職員の後ろにはりつき、一つひとつの作業の効率化を目指した。

 たとえば小、中学生の保護者への就学援助。申請から通知までに必要だった20もの作業を、わずか二つに減らせることがわかった。コンピューターで納税情報などを一括審査して補助の対象者を把握し、対象となった家庭へ通知するだけだ。

 すべての作業を見直した結果、システム費用が安くなったばかりでなく、職員も業務に習熟した。以前はシステムの構築や補修を大手メーカーにすべて任せ、職員自身、自分の仕事が市役所全体の仕事の中でどういう位置にあるのかわからなくなっていた。

 浦添市も以前は大手メーカーのシステムを使っていた。その時はIT予算の9割をシステムの維持に費やし、新しいサービスを開発する余地はなかった。しかし新システム導入後、様変わりした。

 浦添市は自分たちの仕組みを公開し、中長期的には他の自治体と共同で運用することを考えている。上間泰治(うえま・やすはる)・浦添市情報政策課長(50)は「別の自治体が使って修正すればさらにいいものになるし、共同管理すればコストがかなり下がる」と期待する。

 「浦添市は中小自治体のIT改革に風穴をあけるきっかけになる」と、総務省地域情報政策室の石川家継課長補佐も注目する。

■お手本、韓国にあり

 浦添市も一朝一夕に独自のIT改革を成し遂げたわけではない。00年以降、ハードディスクなどの記憶装置を搭載しない「シンクライアント」と呼ばれる端末を試験導入、基本情報が公開されている「オープンソース」のソフトウエアも使うなど、工夫を続けてきた。

 さらに今回の新システム構築を裏で支えたのが、ITコンサルタントの廉宗淳(ヨム・ジョンスン)イーコーポレーションドットジェーピー社長(47)。06年からの市役所の業務見直しにかかわり、実際にNTTデータ九州とともにシステムを作り上げたのも、イー社だ。

 廉氏は、自治体のIT担当者を対象にした韓国への研修旅行を主催し続けている。上間氏も02年に研修に参加した後、韓国をモデルにしたIT改革を考え続け、大手メーカーに頼らない新システム設計の企業公募に踏み切った。

 ソウルの工業高校を卒業した廉氏は韓国空軍で3年間、戦闘機のエンジン整備に携わった。除隊後に勤めながら夜間大学でITプログラムを勉強し、89年に初来日。当時はIT先進国だった日本の会社でプログラムを作成した。

 91年にいったん帰国し97年に再来日するが、その間に韓国はIT分野で日本を追い越してしまった。再来日後、現在の会社を作り、病院関係のITコンサルタントから佐賀市や佐賀県、青森市など自治体のIT改革も手がけた。

 「私は現代のIT朝鮮通信使を自任している。日本に韓国の方法を伝えたい」。浦添市が描く自治体連合によるシステム運営という将来像も、韓国の経験に基づいて廉氏が提唱するものだ。韓国では232の自治体を一つのシステムに統合して運営している。

 「定額給付金を給付した時、各自治体はそのシステム構築にかなりお金を使った。今後、民主党政権が子ども手当を給付する時にも余計なお金がかかる。統合している韓国なら千分の1のコストで済む」と廉氏は指摘している。(佐藤章)

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