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根本正雄(TOSS体育授業研究会・TOSS体育よさこいソーラン学校づくり研究会代表)


組織づくり 人間化の原則



1.場とシステムの提供

 組織づくりにおける人間化とは、人間尊重の経営のことである。船井幸雄氏は『船井流101の経営法則』(ビジネス社)の中で、人間尊重の経営について次のように述べている。

 仕事を通じて従業員の力を最も助長できるような場とシステムを提供すること

 そのために独立、自由、参加の三条件を充足させながら、クリエート、決断、責任の三点を絶えず自らに課せる場とシステムを提供することだと主張している。学校づくりの原則も同じである。

【原則1】
 仕事を通じて教職員の力が最も助長できるような場とシステムを作る。

 学校教育の中で、どのように場とシステムを作っていくかについて述べる。
 栃木県の小学校で体育の研究会が開かれた。東北新幹線小山駅で下車すると三橋健一氏が出迎えてくれ、会場の小学校までお送りいただいた。車にのるとクラシック曲が流れていた。
 「三橋先生は管弦楽をおやりですか」
 「はい、ビオラをやっています」
 「三橋先生は何年生を担任していますか」
 「5年生です。教師になって3年目です」
 「そうですか。子供たちにビオラを聴かせていますか」
 「いいえ、していません」
 「ぜひ、ビオラを聴かせてください。ビオラの弾ける方はめったにいません。ビオラを毎日朝の会や帰りの会で聴かせてあげてください。ビオラの弾ける先生と言うことで、子供たちは一生、三橋先生のことを忘れませんよ」
 「そうですね。気がつきませんでした」
 ビオラがひけることは素晴らしいことである。学級、学校づくりに生かさない手はない。
 子供の感性が一番成長するのは小学生の時期である。その時期に本物のビオラを毎日聴いていたら、子供の感性は磨かれる。音楽の好きな子供が育つ。将来、音楽を職業にしたいと思う子供が育つ。
 教師の優れた長所を生かす場とシステムを作っていくことが人間化である。三橋氏に校長、教頭先生に相談し、次の場とシステムを作り実践していくことをお願いした。

 @ 朝の会で毎日ビオラと他の楽器で合奏を行う。
 A 学期に1回定期演奏会を開き、全校の子供に発表する。
 B 1年に1回定期演奏会を開き、保護者に学年で発表する。

 「三橋先生、毎日ビオラを弾いてください。朝のコンサートとか三橋名曲コンサートとか名前をつけて短時間でいいですから弾いてあげてください」
 「はい、分かりました。やってみます」
 三橋氏のビオラに合わせて毎日リコーダーの合奏を行う。あるいは他の楽器を入れて、学期に1回昼休み定期演奏会を体育館で開く。全校に案内を出して全校の子供に聴いてもらう。
 1年に1回定期演奏会を開き、保護者に学年で発表して聴いてもらう。これを実践する中で、子供は必ず成長する。続けることの大切さ、力を合わせることの大切さ、一つのことをやり遂げた達成感などである。音楽を中心とした指導をする中できるのである。
 自分の学級だけでなく、全校に広げるための場とシステムを作るのである。これは、担任一人の力では出来ない。学年主任、教務主任、教頭、校長が連携してできる。
 音楽会という仕事を通じて、教職員の力が最も助長できるような場とシステムを作ることである。
 三橋氏の長所を生かした場とシステムを作り、音楽を核にした学校経営が出来るのである。音楽は理屈ではなく、感性を育てることができる。感動する心を論理や理屈ではなく育てる学校づくりが可能になる。

2.衆知結集による全員経営

 船井氏は『船井流101の経営法則』の中で、衆知結集による全員経営について述べている。

 人間は、自分が計画とか提案に参加したときのほうが、参加しなかったときの数倍もの実行能力を示すものだ。もちろん、この場合、従業員の提案は、おおむね採用される必要がある。

 学校づくりも同じである。私の理念も全員経営に参加することを目指している。
 私には苦い経験がある。提案した企画案がことごとく否定されたことがあった。会議には参加していたのだが、企画が通らずに変更された時、やる気がなくなった。
 新しい企画であったために「時期が早い」「慌ててやる必要はない」という考えであった。

【原則2】
 自分で計画に参加し納得して仕事をする。計画や提案はおおむね採用する。

 船井氏は「人間性を大事にしたときに従業員はハッスルし、企業も利益を上げることができるわけだが、その決め手となるのは、@独立と参加A競争と協調B趣味と仕事の一致C生きがいのある生活、などであると言えよう」とも述べている。そして次のようにも説明している。

 他人から強制されて、いやいややった時の効率=1
 他人からの命令でも納得してやった時の効率=1.6
 自分で計画に参加し納得してやった時の効率=1.6

 他人から強制されたり命令されたりして仕事を行うのではなく、自分で計画し参加し納得して行うようにしていくことが大切である。不満や不平の出る計画や参加では、学校づくりは出来ない。

3.運動会での実践

 私の勤務した学校の運動会は、教職員が自分で計画に参加し納得してやっていた。
 職員会議で提案する前に、体育部会、特別活動部会、学年会等で十分に話し合いが持たれた。計画に参加し納得してから行動していた。
 5月25日発行の「運動会通信」NO.6には「運動会に向けて全校のみんなへのお願い」として、児童会から4項目の内容が提案されていた。


1.旗づくりは折り返す。スズランテープ赤組は赤、白組は白とする。スズランテープにつけて児童会室へ。
  6月4日まで

2.目標を書く 3年生へ 6月1日まで
 運動会の目標を書く(書き方はペンで)
 1年 青
 2年 みどり
 3年 水色
 4年 赤 (ピンク)
 5年 きみどり
 6年 きいろ
 ※クラスごと赤白に分けてビニル袋に入れ、3年生に届ける。3年生はそれを集めて立て看板を作る。

3.就学学児レースの賞品の手紙を1年生、2年生が書く。
 2年が手紙を書いて、1年が絵をぬる。できあがったものは、賞品係の先生へ。6月1日まで

4.全校種目について
 ○「よーいドン」で応援団は大玉をころがして6年生まで。1年生までいったら、中央の 台までもどす。
 ○キャラクターの旗を持って6年→1年までウエーブ。
 ○旗を持って旗立て台までいったら、キャラクターののぼりをあげる。早くのぼりがあがった方の勝ち。
  (1) 大玉おくり+キャラクターあげ
  (2) おたすけつなひき(午後の部応援合戦後)
 @1回戦 2、3年がひく。5年が助ける。
 A2回戦 1、4年がひく。6年が助ける。
 Bコーンの間から入る。低学年の後ろに入ってもよい。
  (3) 信長3段戦法(紅白リレーの前)
 @ 投げられる玉は一人一個とする。
 A 団長の合図によって投げる。投げ終わったらら、すみやかに自分の応援席に戻る。
 1列目1、2年 2列目3、4年 3列目5、6年


 「運動会に向けて全校のみんなへのお願い」を読んで感心した。運動会までの計画が、どの学年がいつまでに行うのかがきちんと出来ていたからである。
 これは、全教職員が計画から参加し、何度も話し合い納得した上でまとめたものである。計画は教職員だけではなく、児童会でも検討された。それが「運動会通信」として出された内容である。
 内容は教師からの押しつけではなく、全校の子供の主体的な活動を促すものになっている。
 旗づくり、目標書きは全校の子供が書くようになっている。旗は赤組、白組のメッセージを全員が書く。これによって全校の子供が自分のチームへの所属感を認識する。
 自分が赤組なのか白組なのかが旗を書くことによって認識出来る。「去年赤は負けたから、今年はがんばろう」とか「白は今年も勝てば三連勝になるな。絶対に勝とう」という意欲づくりが出来ていく。
 運動会の当日は自分の書いた旗が運動場に張り出される。子供の頭には風になびく旗がイメージされる。
 目標書きは全員である。しかも色別の紙に書くのでどの学年かがはっきりわかる。これも掲示板に全員張り、当日運動場に並べられる。
 目標を書くのなら普通の学校でもやっている。しかし張り出すというところまでは行わない。保護者も読むであろう。友達の親も読むであろう。
 読み手を意識した時、人間は真剣になる。自分の行動が書くことによって意識され、方向づけられる。書いて掲示するという方法は、子供の意識を高め、運動会に主体的に参加させる方法として優れている。
 さらに全校の子供の意識を換気し、心を一つにするのが全校種目である。全校種目は三つもある。私の経験した学校では多くて二つである。大玉送りと全校ダンスは普通の学校でも行う。
 ところが、大玉送り、おたすけ綱引き、信長三段戦法(玉入れ)の三つも行うように計画されている。
 畳み込むように全校種目が多いということは、全員が参加する場が多いことである。個人や学年単位のレースではなく、全校の子供が全員で一緒になって競技をし、勝敗を争うのである。
 このような計画を仕組んだのは全教職員である。教育の本質をわきまえ、子供の可能性を伸ばすための行事のあり方を理解し、「自分で計画に参加し納得して仕事をする」ことを理解していたからである。



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