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愛撫 人の心にふれる力


TOSS HITサークル/木原 仁


「愛撫」をテーマにした道徳の授業。「掌」による愛撫。人に触れることが,人に心を伝えることになる。
何気ない日常の友達とのかかわり方をふり返らせる授業です。
岡山湯郷でのサンライズセミナーでの授業です。(TOSS広島ML推薦)

【こころ(文字)】

発問  「こころ」。読んでみなさい。

こころ

発問  「こころ」はどこにありますか。場所を手で表してみなさい。

 

指示 あなたの「こころ」。どのようにほかの人に伝えますか。ノートに書いて見なさい。

人によって「こころ」の伝え方はいろいろですね。

人は,心温まる「ことば」をたくさん持っています。

でも,こんなときはどのように伝えるでしょう。


【写真@】

生まれたばかりの赤ちゃんです。

人間の赤ちゃんは,歩くことも出来ず,しっかりと目で見ることも出来ず,動物たちに比べると,無力な状態で生まれてきます。

ましてや言葉もしゃべれません。

そんな赤ちゃんは,泣くことによって自分の思いを表現すると言われています。

発問 あなたが,この子のお母さんになったとして,生まれたばかりの赤ちゃんに,どんな心を伝えたいですか。


【表@】 タッチケアの紹介ページ(日本タッチケア研究会)  の中のデータ

最近の研究で,生まれたばかりの赤ちゃんに,お母さんがあることをしてあげると,寝つきが良くなり,泣くことが少なくなる。

体重が増え,表情が豊かになる。そんなことが起こることがわかりました。

発問 いったいお母さんがどんなことをしてあげたのだと思いますか。ノートに書いてみなさい。


【写真A】(タッチケア教室の写真)

見つめあい,語りかけながら,手のひらで赤ちゃんの素肌にしっかり触れる。撫でる。少し圧をかけながら,マッサージをする。

赤ちゃんの肌を手のひらでふれながら行うマッサージを「タッチケア」と呼んでいます。

言葉を十分に理解できない赤ちゃんにとって,お母さんと肌が触れることそれ自体が,立派なコミュニケーションなのかもしれません。

発問 「こころ」。どのようにほかの人に伝えていますか。


【写真B】(狼の写真)
狼に育てられた少女。このような場合はどうでしょうか。


【写真C】 『狼に育てられた子』(家政教育社)のなかの写真

インドで発見されたカマラという少女です。もちろんカマラという名前はあとからつけられたものです。発見されたときは8歳ぐらい。つまり,8年間近くも狼に育てられた子なのです。

歩くときは四つんばい。狼や犬やねこのように動く。

物をつかむには,手でなく,口を使う。


【写真D】 『狼に育てられた子』(家政教育社)のなかの写真
飲み食いも四つんばいの姿勢で行われ,水は犬やねこのように舐めてのみ,食べ物もペチャペチャと舐めて食べる。

生肉や腐肉を好み,死んだ鶏をくわえて茂みの中へ駆け込んで食べたりする。

昼間はぼんやりするか眠っていて,夜になると歩き回り,真夜中の十時と一時と三時の決まった時刻に,狼の「遠吠え」をする。

カマラが口から発する言葉らしきものはこの「遠吠え」だけでした。

カマラは狼と共に過ごした7年間で,狼の習性をつけていたのです。


発問 孤児院で人間として育てられることになった,カマラ。すぐに人間の生活に慣れていったと思いますか。

【写真E】 『狼に育てられた子』(家政教育社)のなかの写真
カマラの育ての親となった,孤児院のシング夫人です。

朝起きてから,夜寝るまで,一日の生活のすべてにおいて,カマラは無関心で,シング夫人にも心を許しませんでした。

シング夫人がどれだけ一緒にやろうとしても,まったく心をゆるさないのです。


発問 でも,そんな中でたった一つ。たった一つだけ,カマラがシング夫人に心を開いた時がありました。1日の生活の中で,いったいどんなときでしょうか。

シング夫人のその様子を見ていた牧師はこう書いています。

「そのマッサージというのは,頭のてっぺんから,足の先まで,愛情を込めて,やさしく,上手にもんでやることであった。(中略)マッサージは,不思議な効果を表して,カマラの筋肉を強め,またほぐして,之を人間らしい使い方が出来るようにしたし,それと同時に,カマラはこのやさしい養母を信頼し,愛するようになったのです。」(『狼に育てられた子』p.54,55)

シング夫人の「掌」による「癒し」により,カマラは少しずつ人間としての生活を身につけていきました。


発問  「こころ」。どのようにほかの人に伝えていますか。


【写真F】(手のひらが写った写真)
お母さんも,シング夫人も使った「てのひら」。


【てのひら(文字)】

「てのひら」は漢字で「掌」と書きます。


【掌(文字)】

発問 実は「掌(てのひら)」には別名があります。知っている人。


「たなごころ」でも,「たなごころ」はその前なんと言っていたか知っていますか。


【てのこころ(文字)】

「手のこころ」なのです。「掌」は人の「心」を表す部分なのです。


発問 手のひらのあたたかい思い出,たくさんあるはずだよね。どんな思い出がありますか。ノートに書いて見なさい。

おばあちゃんに,抱っこしてもらう。

肩をたたいてもらう。

背中をさすってもらった。
(背景に手に関する写真を流す)
 

【参考文献】
・愛撫 人の心に触れる力  山口 創 (NHKブックス)
・狼にそだてられた子  A・ゲゼル (家政教育社)

授業後の感想では,小さい子のお世話をしている6年生の女の子が「面倒見ている弟が,抱っこするとよく泣くのは,私が面倒くさそうに抱くからなのかなあ,と反省しました。」とか,犬を飼っている女の子が,「私の飼っている犬も,そのときの私の抱いている気分が良く分かるんです。愛情を込めて抱いてやると,安心して抱かれるんです。」などの自分の生活に関係するエピソードや,「手のひらにはすごい力があるんだ。」とか「肩に手を当てて『だいじょうぶ』と声をかけてもらったとき,元気が出た。」といった,素朴な思いなどを書いてくれた子もいた。

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