紙のリサイクルからエネルギー資源へ
TOSS長崎 森永祐司
発問1 日本でリサイクルされているものには何がありますか。

・スチール缶
・アルミ缶
・紙
・鉄
・トレイ
・ペットボトル
・ビン

発問2 何のためにリサイクルをするのですか。

・原料を節約するため
・エネルギーを節約するため

 あらためてたずねられると,少し”ドキッ”とするのではないだろうか。出てくる意見は,すべて間違ってはいないはずだ。”そうだね””なるほど”と肯定的に評価する。
説明1 「再生紙」という言葉をよく見かけます。みなさんのノートにも書い てあります。リサイクルされた紙という意味です。再生紙には大きく分けて,2種類あります。「板紙」と「紙」です。「板紙」とは,主に段ボールのことです。「紙」は,新聞紙とか雑誌とかティッシュなどのことです。段ボールの90%は,再生紙です。リサイクルのお手本といえます。一方,「紙」は,50%が再生紙です。このように,紙はリサイクルがよく進んでいる分野です。
発問3 紙をリサイクルとするとどんないいことがありますか。

・木が守られる
・ゴミが減る
・燃やさないから空気が汚れない
 肯定的に評価し,さらっと流す。

発問4 木が守られるからという意見が出ました。木を伐ってはいけないのですか。
 林業を身近に知らない子は,「木を伐ること」と「自然を破壊すること」を同じように見ている。よく知らないからともいえるし,マスコミの環境保護論があまりに理想論に傾いているからだとも考えられる。
 子どもばかりではない。大人もまた,なんとなくそう思いこんでいることは多い。

 説明2 木を切ることは悪いことではありません。昔から,木は木材として,家の材料や橋の材料に使い,そのほか道具や燃料の材料として,使ってきました。ですから,木は伐ってもいいのです。

発問5 何のために紙のリサイクルをするのですか。
 「木は伐ってもいい」と言われたあとに,さらに「何のためにリサイクルをするのか」とたずねられても,小学生には難しいであろう。もし,答えられたらおおいに褒める。
説明3 現在,世界では少しずつ森や林が減ってきています。そのために土地が砂漠化してしまい,荒れた土地が増えるという現象が起きています。ですから,木を大切にしようという意見が出てきているのです。
発問6 1年にどのくらいの広さの土地が砂漠化していると思いますか。

A,対馬の広さぐらい
B,長崎県の広さぐらい
C,九州の広さぐらい
D,その他

説明4 正解はDです。九州と四国を合わせたぐらいの土地が世界で砂漠化しています。このままでは,地球上から木がなkくなってしまいます。
発問7 森や林が減っている原因はなんだと思いますか。

・人間が木を伐る
・温暖化
・酸性雨
・水の汚れ

説明5 どれも正解なのですが,最大の原因は人間です。人間が木を伐るからです。
発問8 森林を減らしている原因は,次のうちどれだと思いますか。

A,紙を作るために木を伐る
B,家を建てるために木を伐る
C,畑をつくるために木を伐る

説明6 一番の原因は,Cです。日本やアメリカやフランスのような先進国では,わずかですが森林は増えています。切った分はまたきちんと苗を植え,手入れをしているからです。貧しい国では,畑をつくるために森や林を焼きます。その畑で作物が採れなくなると,そのままにして別の森を焼きます。その繰り返しで,どんどん森林が減っているのです。それに,畑を作るほかにも,薪や炭をとるために木を伐っています。つまり,逆に言うと,紙を作るせいで森林が減っているわけではないのです。
発問9 紙のリサイクルは,やった方がいいですか。やった方がいいと思う人。やらなくてもいいと思う人。わからない人。
発問10 それは,なぜですか。

・森林が減っているのは確かだ。少しでも節約するのはいいことだ。
・紙が関係なら,面倒くさいことはやめていいのではないか。
 意見を出させたいところである。すべての意見を肯定的に受け止める。

説明7 紙を作るためには,まず木を細かく切って「チップ」というものにします。しかし,チップを作るために,わざわざを木を伐っているわけではありません。建物を造るためには,板や柱が必要です。そのために昔から木を伐ったり木を植えたりしてきました。そういう仕事を漁業や農業と同じように,「林業」と言いました。チップは,丸い木を四角に切るときに出る切れ端を利用しています。そのほかには,建築の役には立たないような「細い木」や「曲がった木」「芯の腐った木」をチップにしています。つまり,もともと捨てるもの,役に立たないものを利用して紙は作られています。その意味では,もう充分節約をしているといえます。

発問11 紙のリサイクルは,やった方がいいですか。
説明8 だんだん迷ってきましたね。紙のリサイクルをエネルギーの面から見てみます。再生する手順を一緒に考えてみましょう。

@トラックで回収業者が集めて回る,リサイクル工場へ運ぶ。
Aフォークリフトで一旦倉庫に貯蔵する。
B工場の人の手で,分別される。ベルトコンベアーで運ばれる。
[除外する紙類] 

窓のついた封筒、ビニールコート紙、紙コップなどのワックス加工品、油紙、写真、合成紙、防水加工紙、感熱紙、感熱発泡紙、裏カーボン紙、ノーカーボン紙

[紙以外のもの]

ポリ袋、粘着テープ類、ワッペン類、ファイルの金具、金属クリップ類、フィルム類、発泡スチロール、セロファン、プラスチック製品、ガラス製品、布製品

C巨大なミキサーに薬と一緒に入れ,ドロドロにする。
Dホチキスの針や糊,砂などを取り除く。
Eインキを薬で取り除く。
F薬で白くする。
G液状のパルプを形に取り,乾燥させる(チップから新しい紙を作る手順と同じ)。

 これらを教師が一つ一つ問いかけながら教えていく。インターネットを映し出せる環境ならば,以下のサイトが役に立つ。

「日本製紙連合会」
 http://www.jpa.gr.jp/

説明9 この中で,リサイクルするときだけに必要な手順を上げてみます。

@トラックで回収
(あちらこちらを回って,少しずつ集められてくる)・・・ガソリン(石油)を消費
B人の手で分別
(ベルトコンベアを動かし,大勢の人が働く環境を整える)・・・電気(石油)を消費
Dホチキスの針や糊,砂などを取り除く。
(機械や薬を使う)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 電気(石油)を消費
Eインキを薬で取り除く。

説明10 このように一度でき上がったものをもう一度やり直すとその分だけ,手間と時間とエネルギー資源がいるのです。それなのに,新品の紙よりも再生紙の方が品質は落ちるのです。たとえて言えば,間違えた文字を消しゴムで消して,もう一度書き直すのに似ています。消す手間と時間をかけ,消しゴムという資源を減らしたのに,ノートは汚くなるようなものです。その上,消しゴムのかすというゴミまで出ます。
説明11 再生するためには,トラックや機械や工場が必要です。そのためにはそれらを動かす燃料が必要です。それが石油です。リサイクルをすると「木」は節約できるけど,「石油」を余分に使います。このように私たちの生活は一見節約しているように見えて,実は別の何かをたくさん使っていることがありそうです。

発問12 リサイクルをすると「木」が節約できます。リサイクルをしないと「石油」が節約できます。紙のリサイクルはやった方がいいですか。やらない方がいいですか。

説明11 世の中のほとんどの人は,リサイクルはやった方がいいと言っています。芝浦工業大学の武田邦彦さんという学者は,紙のリサイクルはしない方がよいと言っています。それは,「木」は計画的に植えていけば,減ることはないからです。太陽エネルギーによって何度でも再生できます。しかし,「石油」は一度使ってしまうと,二度と作り出すことができません。減るだけです。つまり,「石油」の方を節約しなければいけないというのです。みなさんは,どう思いますか。

参考図書
「リサイクル汚染列島」武田邦彦 青春出版社
「リサイクルしていけない」武田邦彦 青春出版社
「完全図解日本のエネルギー危機」桝添要一 東洋経済出版社


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