県立足柄上病院(松田町)の医師が適切な検査を怠り、がんを見落としたため死亡したとして、乳がん患者の女性(当時35歳)の遺族3人が県に計1億円余の賠償を求めた訴訟で、横浜地裁小田原支部は20日、385万円の支払いを命じた。小林正裁判長は「生存する相当程度の『可能性』を侵害された」と指摘、慰謝料のみ認めた。
判決によると、女性は左胸のしこりを訴え02年7月に受診、医師は乳房レントゲン検査結果などから経過観察とし、同11月も再び経過観察とした。その後の検査で肝臓などへの転移も分かり、女性は03年2月に告知され、転院後の04年12月に左乳がんで死亡した。
判決は02年の初診時に関し、がんを疑って詳しい検査をする義務を怠ったと指摘。一方で病状の鑑定結果を基に、当時は既にがんが悪化しており、適切な検査・治療をすれば確実に生き残ったとは言えず「義務違反と死亡の間に因果関係はない」と判断した。
ただ「治療により月単位では延命できた」などとして、死亡時点でも生存していたかもしれないという「相当の可能性を侵害された精神的苦痛」を認めた。
原告側は「医師の過失を認めてもらったことは非常に大きな意義があった」、病院の矢後利雄・副総務局長は「一部敗訴は残念。今後の対応は県立病院課と相談したい」と話した。【澤晴夫】
毎日新聞 2009年11月21日 地方版