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2009年2月1日

子育て支援の実践 2009年2月


[アメリカからの便りバックナンバー一覧]

【アメリカからの便り第5回】

新生児の夜泣きやむずかりを鎮める5つのS

(ヘネシー・澄子/東京福祉大学名誉教授)


 今年の9月に例年のように日本から保健師さんや助産師さん、児童ソーシャルワーカーや大学教授方とオレゴン州セーレム市に「健康な出発プログラム」の研修に行った時のことです。このプログラムは前回(アメリカからの便り第4回/乳幼児の社会的情緒的発達について」 )に何度もご紹介した、「健康な家族運動(HFA)」の一環で、2007年にHFAの十二重大原則に沿って行われている家庭訪問事業として、HFAから認可されたものです。

家庭支援ワーカーのキャッシー・セアさんについて家庭訪問をしたときに、新生児のお母さんが、「赤ちゃんが夜泣きして困る。おしめも濡れていないし、ミルクも十分飲んだはずなのに、どうして泣くのか分からないので、自分まで悲しくなる」と訴えました。このお母さんはシングルマザーで、自分の母親の家に同居していて、赤ちゃんが泣くと母親のボーイ・フレンドがいやな顔をするので、昨晩も泣きだしたので外に連れて行って、一晩中外にいたと言って、私たちがいるにも憚らず涙を流していました。

その時セアさんが紹介したのがサンフランシスコ大学医学部の小児科医、ハーヴィー・カープ博士の「5つのS」という方法でした。

まずむずかりだした赤ちゃんをくるくる巻きにして、横抱き(フットボール抱きともいいます)にして、耳元で「シィー」というと、あら不思議、赤ちゃんはピタッと泣きやみました。
セアさんはお母さんにくるみこみから丁寧に指導し、横抱きにさせて揺すりながら「シィー」と耳元で言わせているうちに、この赤ちゃんはすやすやと眠りに誘われて行ったのです。お母さんは大喜びでした。

以下はカープ博士の「近所で一番ご機嫌の赤ちゃん」というDVDから推敲したものです。

カープ博士によると人間の赤ちゃんはあらゆる生物の中で一番無力の状態で生まれてくる。これは人間の脳が一番進化していて、その脳がもっと成長するまで母親の胎内にいると、頭が大きくて難産になる。
そのため、まだ胎児のままで生まれてくるので、出生から生後3か月までを第4胎児期と考えるべきである。

新生児は胎児期に母親の子宮の中でしっかり守られていたのが急にその守りがなくなって、不安になって泣いたりむずかったりするので、赤ちゃんの夜泣きや理由のないむずかりを鎮めるのには、母親の胎内にいた環境に戻してあげるとよい。

そのためにカープ博士は世界中の新生児のあやし方や宥め方を研究して、母親の胎内の環境の再現をする5つのSという方法を編み出しました。

5つのSとは、
1)swaddling: スワドリング(くるみ込み)
2)side stomach: サイド(お腹を下にした横抱き)
3)shushing Sh−: シー(ママの血流の波長に似た音)
4)swing スウィング:(ゆらゆら揺らすこと)
5)sucking: サッキング(しゃぶらせる)
です。


1)スワドリング・くるみ込み
これは世界のあらゆるところで行われているやり方で、アメリカではインディアンのほとんどの種族が布でくるんだ赤ちゃんを更に赤ちゃんの形をした板に乗せ、結わえつけます。赤ちゃんがとても安心して、気分も安定した子どもに育つと言います。

日本でも各地で「おくるみ」や、東北の「いずめこ」などの伝統がありましたね。博士はスワドリングが大切な基礎段階であると言っています。

このために、柔らかい赤ちゃん用の四角いブランケットまたは布を用意してください。大風呂敷ぐらいのサイズで、薄手のものが良いでしょう。
  1. それを床に引いた布団の上に広げてください。
  2. 4隅をまず左上をA、(時計の針の回る方向に)右上をB、右下をC、左下をDとします。
  3. B隅を中央に向けて30センチほど折ってください。その三角になったところに赤ちゃんの首をおいて、頭はブランケットの外に出します。足はD隅のほうに向いています。
  4. 次にA隅を手にとって赤ちゃんの右腕を体にぴったりつけながら上から下に向けて包み込んで、左の脇の下から赤ちゃんの体の下にしっかりと入れます。
  5. 包み込みの順番は上から下に向かい、次は下から上、3番目が上から下、最後が下から上なので(ダウン・アップ・ダウン・アップ)覚えていてください。
  6. C隅をピット引っ張って弛みのないようにします。
  7. 次にD隅を下から上に持ち上げて、赤ちゃんの左腕を体の横にまっすぐつけてしっかり包むようにして、左肩の下に挟み込みます。足はまがっていても良いそうです。
  8. 今度はC隅を上から下に少し持って行って、赤ちゃんのあごの下で日本の着物のように3角の襟を作ります。
  9. C隅の布を赤ちゃんの右胸あたりで自分の左手で押さえながらCDの間の余った布(これがベルトになります)を下から上に赤ちゃんの右肩に向けてもっていき、くるくるっと後ろにまわして前に持ってきて折り目の間に挟み込んで終わりです。
  10. 赤ちゃんはしっかり布にくるまれて抱きよくなりますね。

    お父さんの方が力があってしっかり包みこめるのでこの仕事に適しているそうです。このくるみ込みの段階で、赤ちゃんは経験がないので激しく泣くかもしれません。でも「すぐに気持ち良くしてあげるからね」と声掛けしながら、手早くくるみ込んで下さい。

    最初はスワドリングだけでは多分泣きやまないので、次のSに移ります。
2)サイド・お腹を下にした横抱き
赤ちゃんの右ほっぺを左手で支え、足を左胸の方にむけて、赤ちゃんの全身を左腕に乗せます。フットボール抱きとも言われています。

赤ちゃんのおなかを下に顔は外側に横抱きする形で、横抱きの角度によって泣いていた赤ちゃんがピタッと泣きやむことが多いので、角度を研究してくださいとのことです。保護者の右手は左手の下で、赤ちゃんの頭を支えます。

これも男の人の方が腕が長く、手が大きいので、お父さんの方が適しているようです。
3)Sh−・シィー
横抱きでもまだ赤ちゃんが泣いていたら、横抱きのまま耳のそばに口を当てて、「Sh−、シィー」と長く音を引っ張って、何度も何度も繰り返すのが第3のSです。

「シィー」の音の大きさは、赤ちゃんの声の大きさに合わせます。これで大抵の赤ちゃんは「え?どこかで聞いた……」という顔をして黙ります。この音は体内でいつも聞いていたお母さんの血流の音に似ているそうです。赤ちゃんが静かになったら「シィー」も小声で、でも少しの間繰り返していると、赤ちゃんはいい気持ちで眠ってしまいます。

Sh−のかわりにヘアードライアーをハイにして、熱風を赤ちゃんに吹きかけないように注意しながら、音だけを聞かせてもよいし、電気掃除機の音でもよく、市売の「血流の音」のCDを聞かせてもよいのです。ただし、だんだんと胎児期に出来た聴覚の脳神経回路が消えて行くので、この方法が有効なのは生後3カ月の終わりぐらいまでです。
4)スウィング・揺する
お母さんの胎内で、胎児は羊水の中に浮いていて、お母さんが歩くたびにゆらゆら揺られていました。それなので、揺らされることが大好きなのです。ロッキングチェア・揺りかごなどは、この原理から発達したのでしょう。

第2のSに書いたように、赤ちゃんの頭と首を両手で支え、体を横抱きに左腕で支えながら、静かに両手を左右に動かします。赤ちゃんの頭がゆらゆらと動きますね。シェークではありません。シェーキング・ベービーは体をつかんで、頭と首を支えずに、前後に激しく揺すって、脳と首にダメージを与え、ときには死に至らしめる児童虐待の一種です。

これは「スウィング」で、赤ちゃんにはとても気持ちが良いのです。疲れたら椅子に腰かけて、赤ちゃんの頭を両手の上に乗せて、体をももの上に乗せ膝を左右に、むずかったら少し早く、静かになったらゆっくりと揺らします。「揺らす」は一日中やっていてもよいそうです。もし室内ブランコを使うなら、まず「スワドリング」してから、頭と背中をまっすぐブランコの背にもたらせるように座らせ、しっかりシートベルトをしめます。最初は手でブランコを揺すり、赤ちゃんが安全に座っていることを確かめてからスイッチを「ハイ」にして、ぎっこぎっこと揺らします。
5)サッキング・しゃぶる
胎児はいつも指をしゃぶっていました。スワドリングされると手が自由でないので、その代りにおしゃぶりを咥えさせると気分が鎮まります。
ただ、母乳がしっかり飲めるようになってから、おしゃぶりを与えるようにとのことでした。また、おしゃぶりを時々指でポンポンと叩いて、落っこちそうにさせると、赤ちゃんはもっとしっかり食らいついて、吸いつくのが上手になります。
赤ちゃんには個人差があり、1から5のSの組み合わせを工夫してくださいとのことです。
4か月を過ぎたら、スワドリングからまず腕を出してあげて、だんだんと動きの自由を楽しませます。

お母さんの子守歌が血流の音にとって代わり、ロッキングチェアにのって、お母さんやお父さんと一緒に揺れるのが好きになれば胎児期から乳児期に移ったと言えるでしょう。どうか試してみてください。

【参照】
Karp, Harvey, MD “The Happiest Baby on the Block” DVD, 2003
http://www.thehappiestbaby.com

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