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クローズアップ2009:聖域、一喝仕分け人

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 10年度予算の概算要求を公開の場で査定する事業仕分けが11日、始まった。国会議員と民間有識者の仕分け人は初日から「廃止」判定を連発。財務省は、過去最大に膨らんだ概算要求の削り込みに仕分け結果を活用する考えだ。これに対し、「密室」での予算編成に慣れていた各省庁からは「1時間の議論で決められるのか」との不満が噴出、巻き返しを図る動きも出ている。どこまで結果を生かせるのか。鳩山政権の「政治主導の予算編成」が試されることになる。

 ◇診療報酬も見直し

 「産科など必要とされている診療科に診療報酬の比重をかけるのは当たり前なのに、なぜできないのか」。医師、病院の収入源となる「診療報酬」の仕分けでは、厚生労働省への厳しい意見が相次いだ。

 社会保障関連費が増え続ける中、予算規模を抑えるには「診療報酬の見直しが必要」と財務省は主張。しかし、日本医師会の政治団体は自民党の強力な支持母体で、厚労省と日医は「医療向上には報酬全体の底上げが必要」との方針で足並みをそろえている。自民政権時代、なかなか切り込めずにいた財務省は、仕分けを使って、医療費を抑える流れを作ることを目指した。

 一方、医療危機への対応も待ったなしの課題。財務省は、全体の診療報酬を抑えながら「眼科などの報酬を見直し、医師不足の産婦人科や小児科に反映する」考えを提示。これに沿って、診療科間のほか、開業医と勤務医の報酬格差がこの日の議論の中心になった。

 結果は「見直し」。財務省にとって「非常に有意義」(幹部)な結果になった。厚労省幹部は「こんなところでできる話ではない」と批判。日医の中川俊男常任理事も会見で「診療報酬の内容をよく分からずに議論しているのでは」と切り捨てた。対立の背景には、行政刷新会議を予算削減の場に使いたい財務省と、中央社会保険医療協議会という診療報酬の議論の場を奪われたくない厚労省、制度見直しにまで守備範囲を広げたい刷新会議という3者の思惑がある。

 とはいえ診療報酬についての仕分けで、他の事業のように「どうするか」が示されたわけではない。今後、政治的に難しいテーマでは具体的な見直し策を提示できない可能性が高い。【平地修、佐藤丈一】

 ◇財務省主導に「不満」

 民主党は、一般傍聴人も参加した公開の場での議論が透明性向上につながるとして仕分け作業を導入。与党、財務省、要求官庁の水面下の攻防の世界だった予算編成が、一部とはいえ一般公開されることになった。

 予算編成の仕組みの大幅な見直しを迫られた財務省だが、この日の仕分けでは議論をリードする場面が目立った。冒頭、財務省の担当主計官が査定方針を説明すると、その後の作業が事実上、この方針通りに進むこともしばしば。地方自治体への事業移管が決まった国土交通省の下水道事業では、終盤での主計官の「(低コストの)合併浄化槽でも下水道と同程度の機能を果たせる」との発言がほぼそのまま判定結果に盛り込まれた。

 鳩山政権の身内であるはずの山井和則厚労政務官でさえ、「若者自立塾」(3億円)の「廃止」に対し、「ニートから脱出した人たちにとって(塾は)命綱。いとも簡単に廃止と結論が出たことに違和感とショックを感じた」と、財務省ペースでの仕分けに怒りをぶちまけた。

 財務省は仕分け結果を「一字一句漏らさず」(大串博志政務官)予算削減に活用する方針。一方、攻め込まれる側の各省庁は、存廃を判断する明確な基準が示されないまま、次々と廃止宣告されることへの不満を隠さない。12月の予算編成に向け、各省の政務三役を巻き込みながら「仕分けはあくまで参考。本番はこれから」(事業官庁幹部)と反撃の構えを見せる。【谷川貴史】

毎日新聞 2009年11月12日 大阪朝刊

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