女性の首を絞めて殺そうとしたとして強盗殺人未遂罪などに問われている湯梨浜町上浅津の無職、山内勝昭被告(35)の裁判員裁判は28日、鳥取地裁(小倉哲浩裁判長)で2日目の審理が行われた。被告人質問の後、検察側は懲役22年を求刑し、弁護側は懲役10年が相当と主張して結審した。公判では、男性裁判員1人が山内被告に質問し、被害者の代理人弁護士が意見陳述した。裁判員と裁判官による28日午後と29日午前の評議を経て、29日午後3時に判決公判が開かれる。【遠藤浩二、宇多川はるか、田中将隆、田倉直彦】
公判では、弁護側の証拠調べと被告人質問が行われた。弁護側は被害者にあてた被告人の手紙や被告の妹の陳述書など5点の書証を読み上げた。
弁護側の被告人質問は情状面に絞った。事件の原因について、山内被告は「被害者を思いやる気持ちがなかった。パチンコにおぼれ、すぐに楽な方に進み、努力する気持ちがなかった」と述べた。また、「申し訳ない気持ちでいっぱい」と謝罪した。
唯一の争点は殺意の発生時期。検察側は(1)侵入時(2)手による首絞め(3)コードによる首絞めの3段階に分けた上で、(3)時点では、「確実に殺す」殺意があった。馬乗りになり手足の動きがなくなるまで体重をかけて手で首を絞めた(2)時点でも、「死んでも仕方ない」という殺意はあった。(1)の侵入時も抵抗されることは明らかで、首を絞めるために手袋をつけており、殺意があったと主張。「強固な殺意に基づく、冷酷で無慈悲な犯行」として懲役22年を求刑した。
弁護側は、最初から殺意があったなら、殺傷能力の高い包丁などを準備していたはず。手で首を絞めた際も、そのまま絞め続けていたはずだとし、事件は偶然が重なったのであり、コードで首を絞めるまでは明確な殺意はなかったと主張した。山内被告の反省の深さにも言及。強盗殺人未遂罪の判例を示しながら懲役10年が相当と主張した。
■裁判員の質問
「アパートで罪を重ねて、逃げようとか、出頭しようという考えはなかったのですか」。検察官や弁護人の話に聴き入っていた男性裁判員が、緊張した面持ちで初めて口を開いた。山内被告は「全くそういう気持ちにならなかった」と答えた。男性裁判員は山内被告をじっと見つめていた。
その後、小倉裁判長が補充裁判員の質問を代弁した。「借金を重ねたのはなぜか。パチンコ以外の理由があるのか」との問いに、山内被告は「またパチンコをやりたいという気持ちだった。欲望に負けた」と答えた。
■被害者を代弁
小倉裁判長が被害者の意見陳述を代読した。概要は次の通り。
「私は首を絞められて気絶をした。目を覚まして思ったことはただただ生きていてよかった、子供が母親の死んでいる姿を見ないでよかったということ。今も夜中は物音に敏感になり、カーテンも開けられない状態。事件後に引っ越すことになった。母子家庭なので経済的負担も大きい。謝罪の手紙をもらったが、すいませんという言葉が多く、形だけの謝罪文だった。一生とじこめてほしいので終身刑を望むが、日本にはないのでせめて無期懲役で、できるだけ服役してつらい思いをしてほしい」
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被害者の代理人の北舘篤広弁護士は、求刑の後、被害者に代わって意見陳述した。「被告人がやったことは明らかで、どのような刑罰を科すかが問題」とゆったりとした口調で話し出した。
量刑については「被害者は無期懲役を望んでいる。殺人未遂罪もさまざまで、今回は生死をさまようほどの事例。法定刑範囲内の死刑または無期懲役から下げる必要があるのでしょうか」と訴えた。
この後、裁判員制度について言及。「裁判員制度ができた理由は何だと思いますか? 市民感覚を反映することです。皆さん考えてください。皆さんの奥さん、子供、恋人が今回の被害者だったらどう思われますか?」と心情に訴えた。
裁判員には、量刑の参考に同様事例の資料が渡される。北舘弁護士は「過去の事例に拘束される必要はありません。過去の判決は裁判官が出したもの。意見と違う場合は強く主張してください。それが裁判員裁判です」と話を結んだ。
■地検
公判の後、地裁前での取材に応じた北佳子次席検事は「充実したいい審理だった。裁判員に分かりやすく意見が伝えられた。求刑は、悪質性を考え、このくらいの刑は必要と判断した」と話した。
長谷川充弘検事正は会見で「法曹三者が協力し、役割を果たせた。我々の主張が理解され、被害者の気持ちがくみ取られた判決に期待する」と述べた。被害者の代理人が同種事件の量刑に拘束されないように求めた意見陳述については、「過去の事例にとらわれないというのは正しい姿勢だ」と賛同した。
■弁護人
「予定していたことはすべてできた」。公判を終え、会見に臨んだ尾西正人弁護士は淡々と話した。情状面でいかに裁判員に分かりやすく説明するか、焦点を絞って臨んだという。「裁判員の一人一人と目を合わせることができた。言っていることは初日の冒頭陳述より理解していただけたと思う」と手応えを語った。
検察側の求刑については「想定の範囲内。どれだけ裁判員に主張が伝わったかは、判決で答えが出てくるだろう」と話した。
■抽選トラブル
地裁敷地には一般傍聴券26枚を求め243人が列を作った。290人が並んだ初日より少なくなったが、この日も10倍近い倍率になった。
抽選は専用ソフトを使ってパソコンで行う。ところが、機器の不調により印刷できないトラブルが発生。結局、パソコンを再起動して抽選をやり直した。このトラブルで当選番号の発表が約10分遅れた。
抽選では、整理券を受け取ると、券を放棄しない限り会場から出られない。他の地裁では、出入りが自由の「リストバンド式」整理券の導入も始まっている。鳥取地裁は「良い面、悪い面があり検討中」としている。
毎日新聞 2009年10月29日 地方版