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2009年10月07日

セシールの雨傘


雨が降ると思い出す歌がある。

飯島真理の「セシールの雨傘」

飯島真理さんはもう日本を離れてアメリカに渡ってずいぶん長くなる。
私よりも年上のはずだがいまだに若い。→HP 

素敵だなと感嘆する。
 
飯島真理さんと言えば、
アニメファンなら「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイ役で有名だ。
私も飯島真理さんを最初に知ったのはマクロスである。

ただ、折に触れて聴いていると心惹かれるものがあり、
アルバム「ROSE」「blanche」「Midori」と聴き及んだ。
コンサートにも出かけたことがある。
 
余談だが、私は当時学生だったけれども、
コンサートに出かけるときは必ず一張羅のスーツを着ることにしていた。
アーティストに対するリスペクトのつもりである。

時としてこの格好は浮くが「なーにかまわぬ」と押し通していた。

この時もネクタイを締めて出かけたが、その格好で本当によかったと思った。
何故かと言えば、
周りの観客はみんな「ヲタク」風ファッションで埋まっていたからである。

飯島真理さんといえば当時「愛・おぼえていますか」がヒット中で、
観客はみんなアニメのヒロインを見るつもりであるかのように見えた。
なので、埋没は免れた。
 
一部の人に絶大な人気を誇った飯島真理さんも、
その後しばらくして結婚して渡米。
ロスを中心に活動をすることとなる。
現在はシングルに戻り、時々日本でも活動をしている。

「愛・おぼえていますか」はベスト10入りしたが、
その後は爆発的なヒットはない。

いい曲はリリースしているのだが、
「アニメ声優」としてのイメージが少し引っかかってしまったのではないか。
ミュージシャンとして先鋭的に活動すればするほど、
ファン層との乖離があったのかもしれない。いい曲作る人なのだけれども。

「セシールの雨傘」は「愛・おぼえていますか」の翌年リリースだが、
評価は高かったもののビッグヒットとまではいかなかった。
この曲は松本隆氏の作詞で、詞の中身はほぼ「ルビーの指輪」をなぞっている。
哀しい別れと再会の歌だ。

シングルバージョンよりも、
アルバム「KIMONO STEREO」収録のアレンジの方が好き。
 
この「セシール」という言葉の意味がわからなくて、
私は当時好きだった人に尋ねたことがある。

 
 「セシールって人の名前なの?」
 
 「えーっとね、人の名前は名前なんだけど…
  "悲しみよこんにちは"は知っているでしょ?」

 
フランソワーズ・サガンの小説「悲しみよこんにちは」。
私も当時は青春を引き摺っていた頃で、何年か前に読んでいた。
主人公は18歳の小悪魔セシル。


 「あのセシルが"セシール"なのか」

 「映画化されたときにね、セシルを演じた女優さんの髪型が流行ったの。
  それで"セシル・カット"と言うのよ。前髪の短いショートね」

 
そんな会話をした記憶がある。
その好きだった人とは、ほんの短い時間で終わった。

学生から社会人になる頃の、
揺れていた心に貼りついて離れない追憶となった。

社会人になった私は、急に多忙な日々を送ることとなった。
 
研修を終えてのち、5月、6月と休みらしい休みがなかった。
こんなはずじゃなかった、もう辞めてしまいたいと何度も思いながら、
辞表を書く暇もなかった。
若かったから切り抜けられたのだろう。
身体だけは丈夫だったのが幸いした。

好きだった人のことは、忙しさに紛れさせて
過去という想い出のエリアに移動させるチャンスだったのだが、
そんなに簡単にもいかずまだ心の中で葛藤を続けていた。

ある雨の日。
私はようやくひと段落ついて、夜まで仕事をしなくてもよくなり、
夕方明るいうちに帰宅出来た。

早く帰って寝るのが常道だが、精神が疲れていたのだろう。
ふらふらと書店に入って雑誌の立ち読みなんかをしていた。
 
何故かわからないが、私はバイク雑誌の棚の前にいた。
私はバイクには乗らないしサイクリストでずっと通してきたのだけれど、
ちょうど夏手前ということで、バイク雑誌が北海道ツーリングの特集を
軒並み組んでいたからだろう。

大好きな北の大地の写真を見ながら、
私はしばらくぼんやりとページを捲っていた。

無意識にページを繰り、バイク雑誌は北海道特集から、
街で出会ったバイク好き女の子、といったコーナーに移っていた。

ただぼんやりと見ていた私だったのだが、
そこに、好きだった彼女の写真を見つけたときは驚いた。

普段バイク雑誌など手に取ることはないのに。
頭の中では「セシールの雨傘」が響いていた。


  『雨の街で不意に君を見かけたのさ
   目が合ったのに知らん顔のセシール』

 
私は雑誌を凝視していた。
振り向きざまの可憐な表情は間違いなく彼女だ。
名前も偽名ではなかった。

ただ年齢は21歳って書いてある。二つも誤魔化してるな。
 
ひとつ違ったところは、セミロングだった彼女は髪を切っていた。
ショートヘアの彼女は初めてだ。
ちょっと前髪が短い。これがセシル・カットなのかな。
だとしたら、なんだかこの出逢いは出来すぎのような気がした。
 
もしかして私に見せようと思ったのか、と一瞬思って、
その浅はかな考えに我ながら呆れた。

私がバイク雑誌など見ることはないと彼女はよく知っているはず。

そのとき私はようやく気が付いた。

馬鹿だなオレは。彼女も、以前はバイクに興味などなかったじゃないか。

  
  『花柄の傘はあの頃と同じ 寄り添う影が僕じゃないだけ
   新しい彼は優しそうだね 少し安心したよ』

 
一言コメントに「早く私も免許を取りたいです」と書かれていた。
そうだよな。時は確実に流れている。

私は何故こんなに愚図愚図しているのだろう。
本当に馬鹿だな。
想い出にしようと決めたのはもうずいぶん前じゃないか。


  『花柄の傘とすれ違うたびに 君じゃないかと覗き込むのさ
   短く揃えた栗色の髪 それが僕のセシール…』


しばらくして、夏がやってきた。

それまであまりにも忙しく過ごしていた私は、
夏に休暇を普通より多く取ることが出来た。

迷わず私は自転車を担いで北海道へ行くことに決めた。
彼女と出逢った北海道へまた行くことによって、
「僕のセシール」を最終的に過去たらしめようと思った。

あれはもう想い出なんだ。

決して忘れることなどないけれども、上書きなどしないけれども、
今度の旅は辿る旅にはするまい。

そんな一人の感傷など北海道は凌駕させてくれるに相違ない。
旅を信じろ。

そうして私は、手間はかかったが
ようやく想いを昇華させることが出来たのではないか。
彼女のことが本当に大好きだった。
だから素直に、幸せに歩んで欲しいと思える。いつまでも忘れない。

私の宝石として大事にしまっておくに値する想い出。

私もまた自分の道を行く。いつでも胸を張れるように。
 
その旅はまた、楽しい、忘れられない旅になった。
広がる大地の風景。どこまでも高い空の青。吹き抜ける風。

そしてまた、幾人もの得難い友人達と出逢った。

そして、その旅で出逢った得難い友人の一人と、
私は後に結婚することになる。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。


>>小さなことから始めよう

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セシールの雨傘へのコメント

■ 豆乳

素敵な出会いのお話をありがとう

なんともドラマティック。。。

こんな話を聞かされたらうちの出会いは隠しておこう・・・(笑)

Posted by 豆乳 at 2009年10月07日 13:24

■ daidaidaidai

http://to1ho1.hamazo.tv/ >豆乳ちゃん


>こんな話を聞かされたらうちの出会いは隠しておこう・・・(笑)

それを聞くと益々聞きたくなるのは何故でしょう^^

いつか教えて!

Posted by daidaidaidai at 2009年10月07日 13:51

■ COACHでし。COACHでし。

http://coach.hamazo.tv/ ホント、『歌』は思い出を呼び覚ますスイッチですね。

あちきがStreetでカバー曲を多く唄うのは、聴いてくれる方
のそのスイッチを入れて貰うためでもあります。

時には「悲しいもの」となってしまいますが、「せつない唄」
のリクエストも多いです。
例え涙するとしても・・・「涙はココロの汗」ですし。

飯島真理さんは、同郷(茨城)です。
あちきの友人のご近所さんでした。(笑)
(実家がどのあたりか知ってます。)

あちきは、「blanche」の中の「シンデレラ」が好きでした。

Posted by COACHでし。COACHでし。 at 2009年10月07日 22:29

■ daidaidaidai

http://to1ho1.hamazo.tv/ >COACHでし。

コメントありがとう御座います。

飯島真理さんと同郷なんですね。
うらやましい(なんのこっちゃ)

彼女はたぶん私は最初にファンになったアイドル(この表現は失礼か?)でした。

「シンデレラ」
いい曲ですねぇ。

シミジミ。。。

Posted by daidaidaidai at 2009年10月08日 10:02

■ シイズな二人

http://www.seaes.co.jp/ 飯島真理さん

懐かしいですね。
というか、我々の年代は音楽とともにありますね。
アクションと音楽は気っても切れない。

私は、飯島真理さんは見に行ったことは無いのですが、
刀根真理子さんを見に行ったことは誰にも言ったことが無い紛れも無い事実です。

Posted by シイズな二人 at 2009年10月13日 12:45

■ daidaidaidai

http://to1ho1.hamazo.tv/ >シイズな二人 さん

いつもどうもです。

刀根麻里子さんとは渋いところですね。

「デリンジャー」でしたっけ?
キャッツアイの主題歌でデビューしたんですよね。

ポップな曲が多くて、ドラマの主題化とかCMソングに、よく使われていた記憶があります。

懐かしいなぁ。。。

Posted by daidaidaidai at 2009年10月13日 16:58
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