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「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」 我らがロック人生に悔いなし

沢宮亘理2009/10/31
ロックスターの夢よもう一度。「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」は、厳しい現実に悪戦苦闘しながらも、バンドのカムバックへ走る男二人を追ったドキュメンタリーである。
米国 映画 NA

 1980年代に一時的な人気を博したものの、今はほとんど知るも者もいないヘヴィメタル・バンド“アンヴィル”。リップス(ギター&ボーカル)とロブ・ライナー(ドラム)は、その中心メンバーだ。給食宅配、コンクリート掘削――不本意な仕事で糊口をしのぎながら、今も休日は地元でひっそりバンド活動を続けている。そんな二人が、ロックスターの夢よもう一度と、ヨーロッパ・ツアーを敢行することになった。「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」は、二人が厳しい現実に悪戦苦闘しながらも、カムバックへの手応えをつかむまでのプロセスを追ったドキュメンタリーである。

(c) Ross Halfin /ANVIL! THE STORY OF ANVIL
(c) Ross Halfin /ANVIL! THE STORY OF ANVIL
 オープニングに映し出されるのは、かつて来日した際のステージの模様だ。爆裂サウンドとファンの熱狂で会場は揺れんばかり。ただし、それは四半世紀も前の話である。今や51歳の中年男となったリップスとロブ。だが、若き日に味わった一瞬の栄光が忘れられない。15歳で友情を結んで以来、三十数年にわたりともに歩んできたロック人生。このまま不完全燃焼で終わらせるわけにはいかない。再起を期した二人は長期休暇をとりヨーロッパ・ツアーに出る。

 同行する女性マネージャーは英語力にいささか難あり。そのせいかどうか、移動の列車には乗り遅れるわ、ギャラは支払われないわと、散々な目にあうのだが、へこたれることなく、次々と公演をこなしていく。たとえ客が5人しかいなくても、決して手は抜かない。つねに全力投球。それが彼らの“ロックな”生き方なのだ。

 ツアーは成功とは言い難かった。しかし、入魂のデモテープに敏腕プロデューサーが反応。久々にレコーディングが実現する。ところが、なにげないロブの一言にリップスがキレる。一時は決裂寸前までこじれるが、プロデューサーが取りなして、無事に和解。雨降って地固まる。以前にも増して強い絆で結ばれ、ついに自信作を完成させるのだが――。

 直情型のリップスと、クールなロブ。対照的なキャラだが、ともに苦労や屈託を全く感じさせないところがいい。ロックに人生を捧げた者だけが持つ、すがすがしさとでもいおうか。憎めない男たちだ。随所に挿入される家族やファンのインタビュー映像からも、彼らの愛すべき人間性が伝わってくる。ヘヴィメタが大嫌いだったというダスティン・ホフマンが、本作を見て心底感動したそうだが、さもありなんと思わせる。

(c)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL
(c)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL
 ロック映画のファンなら、ロブ・ライナー監督(奇しくも本作のロブと同姓同名)の「スパイナル・タップ」(84)を思い出すかもしれない。架空のバンドが遭遇する苦難やトラブルを通して、ロック・ミュージシャンの苛烈な人生をユーモアたっぷりに描いた、疑似ドキュメンタリーの傑作で、二つの作品はエピソードが重なるところが多い。「アンヴィル!」のサーシャ・ガバシ監督は、「スパイナル・タップ」をかなり意識しているようなので、偶然なのかオマージュとして演出したのか、楽屋落ち的な興味もつきない。

 高校時代に一ファンとしてアンヴィルと出会い、北米ツアーにローディーとして参加した経験を持つガバシ監督。2005年に二十余年ぶりの再会を果たし、変わらぬ二人を見て、製作を決意したという。そんなガバシ監督のアンヴィルへの愛があふれたドキュメンタリー。たとえヘヴィメタが嫌いでも、人間が好きでさえあれば、きっと感動するはず。

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「アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち」(2009年、米国)

監督:サーシャ・ガバシ
出演:スティーヴ“リップス”クドロー、ロブ・ライナー、ラーズ・ウルリッヒ、レミー、スコット・イアン、スラッシュ、トム・アラヤ

10月24日、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

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