水俣病被害の実態を把握するため、民間の医師らが熊本、鹿児島両県の不知火海沿岸で9月に行った「住民健康調査」(検診)の結果が29日発表された。受診者のうちデータ集計を許諾した974人の93%にあたる904人が「水俣病か水俣病の疑い」と診断された。受診者の9割は、水俣病の検診を受けたのは初めて。そのほとんどに症状が認められた今回の結果は、潜在的な被害者がなお相当数いることをうかがわせる。
水俣病問題では、公害健康被害補償法に基づく患者の認定(認定されると、加害企業チッソによる補償が受けられる)や、「患者」と行政は認めないが医療費の自己負担分を補助する救済の制度があるが、居住地域による枠が設けられている。チッソが有害な排水を止めた1968年の年末まで、その地域内に「相当期間」住んでいたことが前提条件だ。
こうした地域別や年代別でみると、「地域外」の受診者213人のうち199人(93%)が「水俣病かその疑いがある」とされた。「69年以降の生まれや同年以降の転入者」では59人のうち51人(86%)が該当した。68年以前の世代の該当者は915人のうち853人(93%)だった。
調査の実行委員会は「手足の感覚が鈍い」「胸や腹などの感覚が鈍い」「視野の左右が狭い」など、水俣病によくみられる五つの症状が一つでもある人を「水俣病かその疑い」と診断した。
症状の出現率は、23%(視野が狭い)〜79%(手足の感覚が鈍い)。水銀汚染がない福岡、熊本、鹿児島各市の計172人に同様の検査をしたところ、こうした症状の出現率は0〜2%だった。これと比べると、不知火海沿岸は格段に高いことが分かった。
今回の検診は9月20、21の両日、8市町の17会場で無料で行われ、1044人が実際に受診。974人は33〜92歳で、平均年齢は62歳だった。
今回は、水俣病患者が56年に公式に確認されてから最大規模の検診。同規模の検診は被害者団体が中心になって87年11月に行い、1088人の78%が「水俣病かその疑い」と診断された。
国が大規模な住民検診をしたことはないため、水俣病被害の全体像はいまだにわかっていない。田島一成・環境副大臣は今回の調査について「一定の関心を持って見守っている。内容を見させていただいてから見解を述べたい」と話した。