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■書 評

宇宙エレベーター こうして僕らは宇宙とつながる

宇宙エレベーター こうして僕らは宇宙とつながる

[著者]アニリール・セルカン

大和書房 / 二一〇〇円


[評者]横山 広美 (サイエンスライター)

■次元を超える知のヒーロー

 A・セルカンを知るための必読書といえるだろう。だけど読み進めるほど「セルカンって一体何者?」と思わせるのが本書の魅力だ。

 トルコ人初のNASA宇宙飛行士候補に選ばれたセルカンは、東京大学に籍を置き建築を研究する。本国では「セルカンになりたい」という子供がいるほどの人気ぶりだ。人柄のよさと発想力のスケールの大きさは本書を通じてもよくわかる。

 タイトルは、セルカンがそれまでの常識を覆して発案した、宇宙に浮かぶ基点をシャトルで結ぶ宇宙エレベーターのことを指す。しかしこの本はいわゆる科学書ではない。セルカンがどのように育ち、何を考えているかをやわらかい文体で書き綴(つづ)った本といえるだろう。数カ国語を自在に操るセルカンが、日本語で書いた本だ。

 彼は昔から、次元、そして時間に強い思いを馳(は)せていたようだ。十五歳のとき、タイムマシンを作るエネルギーを得るため、仲間たちと電子加速器を作ろうとしたエピソードはとてもおもしろい。その後このときの仲間と共に十一次元宇宙論について論文を書き、十一次元宇宙の建造物を考えたことがその後の活動に大きな影響を与えたようだ。

 ところどころに、創作風の物語が織り込まれている。中でも、電車の中で未来から来た自分に会う話は、タイムマシンへの飽くなき憧(あこが)れが込められていて、セルカンの原点を知る作品に仕上がっている。

 さらに驚くことに、シュメール語を操れるセルカンは、ギルガメッシュ叙事詩などいくつかの古文書を自らの訳で解説し、古代にあったと思われる科学技術について言及している。一体彼は何の専門家なの?と思うほどだ。しかし本当の知識人とはこのようにすべての方向に興味の根を張れる人のことを言うのだろう。

 読者対象を広げるためか、先端研究のことについてはあまり触れていない。だからますます現在のヒーロー、セルカンのことを知りたくなる。


Serkan Anilir 1973年生まれ。トルコ国籍。エール大客員教授。専門は建築学、工学。


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