古都狂奏曲 (第四章) 愛の贖罪~未来図が描けなくて~

この物語は完全なるフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係ありません

【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 6
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722 名前:古都狂奏曲① ◆jbk/fGtpkA [sage] 投稿日:2009/09/21(月) 06:13:06 ID:K2kKcpzi

「今いきます」
先輩社員の呼ぶ声に、はっきりと答える。
新入社員のクニは、どんな雑用も嫌な顔一つせず精力的にこなした。
夜は学生時代から続けている肉体労働・・工事現場の作業員や交通警備員などのバイトを週三回入れている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先輩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
出張を命じられている今も、自分が生涯で最も傷つけてしまった人のことを思う。
クニが嫉妬心から、部員たちと最愛の人を集団強姦を犯してから、三年の月日が流れた。
被害者である彰雪は、事件以来姿を消してしまった。
大学が事件をひた隠しにしたため、クニを含む実行犯にはなんらお咎めはなかった。
あれから、クニは自分の体を痛めつけるように、日々過酷に働いた。アメフトも辞めバイトを複数掛け持った。
夢中で働いているときが唯一、罪悪感から逃れられる時だった。一人で暇を持て余すと、気が狂いそうになる。
「おい、聞いてるのか、国枝」
「は、はい?」
「だから、明日東京へ行ってくれ。ホテルの手配はもう済んでる。新宿だからな」
翌日は夜のバイトが入っていないことにほっとしながら、クニは先輩社員から出張に関する資料を受け取る。
・・東京か・・一度先輩と行きたかったな・・。ふとクニの頭に学生時代の甘いデートプランが蘇る。
会って土下座して謝りたい。赦してくれなくてもいい、ただ、謝罪がしたい。いや、生きていてくれたら、それでいい。
先輩社員の説明を聞きながら、クニは三年前から一歩も前へ進めていないことを実感していた。

「東京のビジネスホテルって狭いんやな」クニは部屋に入り独り言つ。
初めての出張。本店の営業報告会議に先輩の代理として参加するだけだったが、新人には少し荷が重かった。
モバイルノートパソコンを立ち上げた瞬間、クニの頭に忘れたくても忘れられない光景がフラッシュバックする。
集団強姦後の薄暗い部室。ぐったりとした彰雪。身体を拭く自分。・・そして彰雪の空ろな瞳。
クニはこの記憶と三年間戦ってきた。しかし、振り払っても振り払っても容易に消えてはくれない。
叫びだしたくなる気持ちを必死で押さえ、いつもの様に違うことを考えようとする。
「男でも女でもいい、誰か呼ぼう」クニは風俗系のサイトにアクセスした。電話番号を控えて携帯で電話する。
ホテルの場所を伝えると「ご希望はありますか?」と尋ねる風俗店の店員の声に、
「誰でもいいです」とだけ言って電話を切った。
そうだ、誰だって構わない。先輩以外ならみんな同じだ。誰を抱いても。
それでも、シャワーぐらい浴びておくのが礼儀だろうと思い直し、浴室に入っていった。

ピポーン、と呼び出し音が鳴る。
ビールを呑んでいたクニが立ち上がりドアを開けると、そこに立っていたのは、変わり果てた彰雪だった。
学生時代の面影は残っていない。二回り痩せた体躯。サラサラの黒髪だったのに今は金に近い茶髪。
それでもクニには、一目見ただけで彰雪だとわかった。
彰雪にもまたクニがわかったようだった。
「ロングは六万になります。前払いで」事務的に言う彰雪。
クニは掛けてあったスーツから財布を取り出し、無言で料金を払う。
「い、いつからこんな仕事を?」俯きながら問う。
「いつからでもいいやろ?さ、始めよか?」彰雪が徐に服を脱ぎだす。
クニには痛いほど、わかっていた。彰雪をここまで堕してしまったのは他でもない自分だ。
取り返しがつかない。どんなに詫びても悔やんでも。
上品で邪気ない含羞んだような笑顔が好きだった。
常に穏やかな空気を纏った一つ年上の誰より大切だった人。
どんなことをしても守りたいと思っていた。でも、誰にもとられないよう壊してしまいたかった。
結局自分のくだらない独占欲で、何よりも大事な先輩をこんな風にしてしまった。
赦されることではないと思う。自分はもう生きる資格もないと思う。
戻れるものなら、あの頃の自分になって自ら命を絶ちたいとすら思う。


ベッドの上でしどけなく彰雪が誘う。「客だろ、早く抱けよ」と投げやりに言う。
いくら自分のやったことの結果であっても、クニにはそれが耐えられない。
「先輩、服着て」
そういうのがやっとだ。
ベッドに半裸状態で座っている足元に跪いて、赦しを乞う。
「お願い、もうやめて。一緒に京都に帰ろう」
「俺が売り専だから抱けないのか?そりゃ、そうだよな。昨日は薄汚いオヤジに突っ込まれてたし」
わざと自分を貶める言葉を吐く彰雪に、胸がつぶれそうになる。
今でも、こんなに好きなのに。目の前の彰雪に対してかける言葉は一つもない。
隣に腰掛けて、抱きしめてみる。
懐かしい肌の感触は紛れもなく、自分が恋焦がれていた彰雪なのに。
「帰ろうよ、先輩」
「どの面下げて帰れるんだよ、クニ」 彰雪が静かに口を開いた。
「・・・」
「いいか、あの事件は地元で知れ渡ってるんだよ!男に輪姦された男だってみんな知ってんだよ!」
・・全ては自分のせいだ。吐き捨てるように言う彰雪に、クニはどうしていいかわからなくなってしまった。
それでも何とか思いついたことを言葉にしてみる。
「俺、あれから三年間一生懸命働いたんだ。貯金もあるよ。みんな先輩にあげるから、い、一緒に暮らそ」
「いやだね。俺はこの生活気に入ってるんだよ。クニだって言ってたじゃんか。俺淫乱なんだろ」
どんな言葉もきっともう先輩には届かない、クニは思った。
「わかった。じゃぁ、仕事してくれる?」
俺が先輩を抱けるわけない。こんな状態でそんなことが出来るわけないじゃないか。声にならない言葉を吐く。
ベッドに横になるクニに、彰雪の手馴れた愛撫が加えられる。
俺は、死ぬべきだ。生きていちゃいけない。一人の人間の、それも最愛の人の人生をこんなにも狂わせ、
荒んだ生活をさせている俺は最低最悪のやつだ。地獄に落ちて当然の人間だ。自責の念に押しつぶされそうになる。
「もういい。今日は疲れてるから、隣で寝て」
「・・・」
「仕事だろ、隣で寝て」

真っ暗な室内に、半月の不安定な月明りが差し込んでいる。
静かに眠る彰雪を抱きしめながら、クニは気づかれないようにひっそりと一晩中泣き続けた。

「先輩、携帯番号だけ教えて。また呼ぶから。直で呼んだ方が実入りがいいんでしょ」
よく朝ホテルの前でクニは平静を装い番号を尋ねた。 そっけなく彰雪が番号を言う。
「ありがと。来週また呼ぶから」
「・・・」
「またね、先輩、来週ね」
足早に去っていく彰雪の背中を見送る。
・・好きだよ、今でも。追って縋りたい気持ちを必死に抑える。
今の自分にはその言葉を吐く権利はないことはわかっている。
叶うことなら、光の射す場所に連れ戻したい。アメフトで一緒に練習していた頃の屈託ない笑顔を思い出す。
一度も彰雪の口から自分を責める言葉が出なかった。
自分のせいで大学を中退することになり、自分のせいでこんな仕事をしているのだから、もっとなじって欲しかった。
「調子のいいことを考えてるよな」・・彰雪はきっと自分を、責める価値もない人間だと思っているのだろう。
それでも再会できたそのことだけで、喜んでいる自分もいる。
やれることを精一杯やって、考え付くことを全部やって、それでダメだったら保険金で先輩に償おう。

帰りの新幹線の中、窓に映る自分の顔の向こうに遠くの景色が流れていく。
どうかこの気持ちだけは、届きますように。クニは祈るようにそれを見ていた。


崎谷健次郎
序盤 7th AVE  

中盤 25:00の嵐 

ラスト 不安定な月

http://www.youtube.com/watch?v=F-dVY3qiVVM