政権交代で医療界にも変化の荒波が押し寄せる。日本医師会(日医)は「大きく変わらなければならない」(唐沢祥人会長)と生き残り策を探る。一方で「医療崩壊」に悩む現場の医師らは「疲弊する現場を救う好機」と自ら動き始めた。
「露骨な日医外しで、明らかに報復人事だ。日医は政権に屈服することはない。正義は我が方にある」。25日、東京・本駒込の日医会館で開かれた日医の臨時代議員会。政策担当の中川俊男常任理事は、出席した代議員の前で民主党政権を激しく非難した。
2年に1度、診療報酬改定を議論する厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)の委員から日医枠(3人)がなくなるとの情報をつかんでの発言だった。
日医の政治団体「日本医師連盟」は20日、それまでの自民党一党支持の撤回を決め、与野党中立に軸足を移したばかり。そうした時期の「日医外し」に、中川氏は28日、会見で「中医協の審議にもかなり支障が出るだろう」と語気を強めた。
焦りの色を深める執行部に対し、先の衆院選で民主党支援を鮮明にした原中勝征・茨城県医師会長が19日、来春の日医会長選に立候補を表明した。原中氏は、10月に入って5日、22日と小沢一郎幹事長と面会を重ねる。「鳩山由紀夫首相とも携帯電話で話せる間柄」と同党との深いつながりを周辺に語る。日医の内部で民主党政権への「いらだち」と「接近」が同時に進行する。
「日医は悪あがきしている。本来なら(執行部の)総辞職が必要。民主に乗り換えるだけでは国民の信頼を失う」。医師の労働環境改善などに現場から取り組もうと08年6月に発足した医師たちの新組織「全国医師連盟」(825人)の黒川衛代表は指摘する。日医の会員(16万5360人)は勤務医と開業医がほぼ半々だが、代議員会に出席する354人中、勤務医はわずか34人。「代議員会でものごとを決める日医の手法は時代遅れだ」
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「皆さん、本当に政治と社会が変わった感じがしますね」。22日、東京・日比谷公園で開かれた日本医労連など医療関係の10団体・組合の集会。来賓の小池晃・共産党政策委員長の呼びかけに、参加者約5000人が盛大な拍手で応えた。
集会には、今までも出席していた共産、民主、社民各党の国会議員に加え、自民党に近い日本看護協会の幹部が出席した。日本歯科医師会も初めて連帯のメッセージを寄せた。
参加した長野県佐久市の臨床検査技師、市川博章さん(40)は「新政権の誕生が、現状の打開につながればいい」と期待を込める。
近年の地域医療の崩壊、医師不足を受け今年5月、医師による初めての労働組合「全国医師ユニオン」が結成された。9月には勤務医の現状を探ろうと「勤務医110番」を実施した。植山直人代表は「我々の力の結集が必要だ」と語る。巨大組織「日医」の混迷を尻目に、現場の医師たちは新たな時代に向けて動き始めている。【中澤雄大】=つづく
毎日新聞 2009年10月30日 東京朝刊