アフガニスタン北部クンドゥズ州で4日、駐留ドイツ軍の要請で実施された米軍の空爆は多数の民間人を巻き込んだ。北大西洋条約機構(NATO)は異例とも言える早さで「調査」を約束し、駐留米軍の最高指揮官も01年にアフガン戦争が始まって以来、初めて空爆現場を視察した。
アフガン戦争は10月で9年目に入る。NATOなどの素早い動きは欧米各国で高まる戦争長期化への疑念や撤退を求める世論を意識したものでもあったが、アフガンには別の見方がある。内務省高官は「ゆがんだ考えと思われるかもしれないが」と前置きし、「クンドゥズでなかったら対応は違っていたはず」と言った。
クンドゥズ州は、米英軍の攻撃で崩壊したタリバン政権が最後まで抵抗した州であり、現在は中央アジアから必要物資が陸送される外国軍の生命線だ。タリバンは東部のパキスタンからのルートに次いで北部からの補給路をずたずたにし、象徴的な土地を奪い返すことを狙っている。今回の空爆の発端はまさにNATO軍向けの燃料輸送車が強奪されたことだった。
ドイツ軍司令官はタリバンのこうした狙いを知るからこそ、輸送車強奪に震え上がり、米軍への空爆要請を即断した。一見、民間人被害に誠意を示したかのようなNATOなどの対応は、住民がタリバン支援に動くことを防ぎ、補給路の安全を確保するためだ。現地ではそう思われている。
戦時下で行われた今回の大統領選で、首都カブールの投票所には「治安の回復」を求める有権者の列があった。投票日前に訪れたタリバンの発祥地、南部カンダハルでも「戦争を終わらせて仕事をくれるならばタリバンでも誰でもいい」という声を耳にした。
投票率は04年大統領選を大幅に下回ったが、理由は、タリバンの選挙妨害や腐敗にまみれた既存の政治勢力への失望だけではない。選挙を通じても、自分たちの未来を自分たちで決めることができないという「現実」へのあきらめが、投票行動に少なからず影響したように思う。空爆への根深い疑念も同じ根から派生している。
制空権を外国軍に支配された政府に、国民への空襲を止める手だてはない。カブール国際空港は、外国軍機が自由に行き来し、商業便の発着は毎日のように遅延する。物価高騰も、物資輸入の大半を頼る隣国パキスタンでの掃討作戦が主原因で、アフガン人自身は手をこまぬくしかない。
カルザイ大統領は、タリバンを含め、欧米が「戦争犯罪者」とみなす各軍閥勢力との連帯も重視している。欧米社会には根強い批判があるが、軍閥指導者たちは今も、地域や民族ごとに人心を集めているのが実態だ。先の高官は「外国軍撤退後に内戦が突発しないようにするための、自衛策だ」と政権の意図を代弁した。
この戦争は誰のためのもので、誰が犠牲を払っているのか。アフガン人は、誰も自分たちのための戦争とは信じていない。【栗田慎一】
毎日新聞 2009年9月14日 東京朝刊
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