柳 なんでしょうか?
長谷川 ヒントはね、ずっと長い間、洗脳されてきている。
柳 洗脳?
長谷川 幼少期からね。
柳 父親に洗脳されているっていうことですか? 母親に?
長谷川 考えちゃうよね。
柳 父親をどう思っているんでしょうかね……。
長谷川 うん、そこがね、ブレーキがかかっているところなんですよ、ずっと。ここから先に行くと深みにはいりますけど、今、大丈夫ですか?
柳 父を殺す夢もよく見ますね。頭をかち割って脳味噌が出るみたいな……。
長谷川 その夢のあと、息子さんが亡くなった夢を見たあとと、父親の頭をかち割って脳が飛び出て死んだあと、違いはありますか?
柳 父親を殺した夢を見たあとは、泣かないかな……。
長谷川 そのあと泣いて引き摺ったりしない?
柳 ただ、斧を頭に打ち下ろした瞬間の抵抗みたいなもので両手が痺れて、目を覚ましても腕の筋肉が強張っている感じはありますね。感情ではなくて、身体的な持続感……。
長谷川 うん。なんで父親の頭をかち割るんですか?
柳 かち割る瞬間しか出てこない……。
長谷川 夢の中ですら、感情というのは抹消されているんですね。息子さんの場合には、気持ちがあるじゃないですか?
柳 圧倒的な悲しみ……悲しみから目を逸らせず、瞬きもできないような……でも、毎晩眠る前に、息子が殺される様子を細かく想像してしまうんですよ……。
長谷川 誰に殺されるの?
柳 外部から侵入してくる凶悪な存在です。それで、私の前で息子の目をえぐったり、歯を一本一本へし折ったり、舌を切り刻んだり、普通の殺し方ではないんですよ、体中の皮を剥いだり、あぁ口に出すのもおぞましい……。
長谷川 それがさっき「洗脳されていますね」と言った部分に相当するんですけど、柳さんの心の中に、幼少期から侵入してきている別の人の思考、考えなんです。
まあ、ちょっと話が戻りますけど、同じ死の状況でも、父親の場合と息子さんの場合でまったく違うっていうのは解りましたよね? 父親の場合は、夢の中ですら感情がないんですよ。