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ドキュメント「児童虐待」

柳美里

長谷川 怒鳴って、自分の行為に正当化はついてなかった? あとからつく?
 布団を蹴ったら風邪をひく、ということですよね。
長谷川 釘師の父親は、やはり何か殴るときにそのような合理化をしていました?
 締めるとこは締めなきゃタガがはずれる、と言ってましたね。
長谷川 きちっと締めてしつけをしなきゃいけないということなんでしょうね、鞭を使って。柳さんが「浮いていく」ときに、自分でコマを回しているんですが、そのときに、実は紐ではなくて鞭で打って回されている。鞭というのはキーワードになるかな。
 父は十二歳まで韓国で育ちました。儒教では、親に対して子が無条件に尽くすべき孝道と礼節が、家庭生活の秩序の基礎になっています。日本と桁違いに父権が強いんで、その影響もあると思うんですが……文化の違いと言うかね……。
長谷川 柳さんの「布団」のエピソードの場合には、その合理化が、まだ納得できるんですよ。寒いんで風邪ひいちゃうからとかね。
 でも、歯磨きの場合はどうですか? 小さい頃は、歯磨きが嫌いで口をなかなか開けてくれなかったんですよ。歯ブラシの柄で喉を突くと、ウエッとなるじゃないですか。その隙に磨いてた。で、一回食べたものを全部吐いてしまって、「ママがせっかく作ったものを吐くな!」って怒り狂いました。
長谷川 でもその、せっかく作ったものを吐くというのも、そこに至った状況を抜きにすると、それは吐くべきものではない。せっかく作ったものは食べてねというように、理にかなっているとは思います。
 でも、柄で喉を突くのは……。
長谷川 でもそこにも理はあるんですよね。歯を磨かないと、この子のためにならないと。
 虫歯になりますからね。
長谷川 この子が拒絶するから、歯ブラシの柄で喉を突いて口を開けさせなきゃならないと。合理化というのはそういうものなんですよ。理が合うようにするという機制が働くんです。
 親の側の理というのは、どこまで行っても合ってしまうものなんでしょうか?
長谷川 合わせようとしちゃうね。父親を見れば解るでしょ? 父親は何をやっても、尋ねれば理由をつけて合わせようとしてきたんじゃないかと思います。

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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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