長谷川 浮き沈みで、沈むというのはいわゆる鬱ですよね。
柳 鬱です。
長谷川 浮いているときは?
柳 例えば、インターネットで〈いつでも里親募集中〉という掲示板を見つけてしまい、捨て猫を一、二匹保護するならなんとかなるんですが、気がつくと十匹も……猫だけじゃなくて、捨て犬も保護したんですけどね……。
長谷川 そうですか。浮くとたいていその行動パターンですか。何かを、こう引き受ける。
柳 そうですね、何かを引き受ける。あと、もう作家をやめてドッグトレーナーになろうと決意して、専門学校に通いはじめるとか。マラソンをしていたこともありましたね。それも、山岳耐久レースとか、よりハードなレースをチョイスして、月二回のペースでエントリーしていました。
長谷川 興味深いですね。その浮いたときの行動は、共通項があるようです。愛情に恵まれていない動物たちに愛の手を差し伸べてあげたいという方向──結果的には荷物を背負ってしまうことになると思うんですけれど──もしくは自分の体に鞭を打つ方向ですね。健康にいいというよりは、自分の体を酷使する方向のどっちかに限られている。どちらにしても、心理的、物理的、身体的に自分の負担が増すという点で、共通しています。
柳 抗鬱剤を服用しはじめたのは、十四歳からなんです。父と母が別れてすぐの頃ですね。私は母について家を出て、窓から母の愛人の本宅が見えるマンションで暮らしたんです。本宅の妻が怒鳴り込んでくるというような修羅場もあって、居た堪らない日々を過ごしていたんですが、じゃあ父の家に帰れるかというと、父は暴力をふるうひとだったんですよ。私は鼻の骨を折られたし、母も鼓膜を破られているんです。何故、殴られるのか、よく解らないことが多かったですね。狭い家だったので、父親がテレビの前に横になると、またがないとトイレに行けないから、寝てることを確認して、そぉっとまたぐんですが、「親をまたぐとは何事だ!」と、もうボコボコにされる。「反抗的な目をするな」と殴られたこともあったし……でも、私が悪いときもありました。万引きで捕まったときは、鞭で全身を打たれて、全裸で車に乗せられて、遠くの公園に捨てられました。
つづく