幼稚園から小学四年までの五年間を過ごした借家での出来事だ。
大家の家族が暮らす母屋と、わたしたち家族が暮らす離れは同じ敷地にあった。大家のうちには、わたしと同じ歳のKちゃんと妹と同じ歳のSちゃんがいた。毎週日曜日には、Kちゃんのお父さんがわたしたちを山の上のS学園に連れて行ってくれた。
わたしは、Kちゃんのお父さんが、わたしを抱きあげるときだけ、股間に手をあてがって素早く指を動かすことに気付いていた。自分の子や、わたしの弟妹を抱くときは、脇の下に手を差し込んで持ちあげるのに──。
ある日曜日、なにかのきっかけで、子どもたちが駆けっこをはじめて、突然視界から消えてしまった。
あわてて追いかけようとしたのだが、おじさんに腕をつかまれた。
「美里ちゃん、学校のなかにはいろうよ」
おじさんの声は低くかすれていた。
裏庭の石段に腰を下ろすと、おじさんはわたしを抱きあげ、自分の膝に座らせた。
おじさんの息がはぁはぁと荒くなり、ブラウスのボタンをはずされて、スカートをまくりあげられた。
「あそこに寝転んだら、気持ちいいよ」
おじさんが指差した木陰は、横になったら埋もれてしまうほど雑草が生い茂っていた。
「いまから、おじさんとすること、お父さんにもお母さんにもKにも言っちゃ駄目だよ。おじさんと美里ちゃんだけの秘密だよ。約束できる?」
ヤだ!と叫んで逃げ出したかったが、舌が木切れのように固くなって声を出せなかった。
舌の上には、いちご味のドロップが残っていたが、舐めることも、噛み砕くことも、吐き出すことも、飲み込むこともできなかった。
全裸で草の上に抱き下ろされた一瞬、すべてが真っ白になった。
空の青が戻ってきたとき、覆いかぶさってきたおじさんの黒目のなかに自分の顔が小さく映っているのが見えた。