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夫の退職金も使い果たし、さらに盗みとは

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 ここ最近お友達になった傍聴好きの方に教えていただいたオススメの裁判官を傍聴しました。

 被告人は髪の生え際が白い茶髪の64歳の女性。弱々しく法廷に入ってきました。罪名は、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂。被告人は勤務していた会社を辞める際に「ロッカーの鍵をなくした。」と嘘をついて合鍵を作り、その後、従業員用の休憩室兼更衣室に侵入し、自分の使っていたロッカーを使っていた被害者Aさん(なんと被告人の友人)のロッカーを開けてカバンの中から現金7万円と健康保険証などが入った財布を盗みました。しかも保険証を使いAさん名義でサラ金から金を借りていました。とんでもない女です!

 そして2年後、同じ場所で盗みをしようと被害者Bさんのカバンを開けたところを、従業員に見つかり捕まりました。普通ならかばってくれるであろうと予測される夫の供述ですが、「長男からは妻の借金が原因で縁を切られてしまいました。今は私の年金で暮らしていますが、借金の返済で生活が苦しいです。妻を最も許せないのは、1500万円の私の退職金を勝手に借金の返済にあてたことだ。」と強い怒りを感じるものでした。1500万もの大金を借金にあててまだ借金があるって……一体借金はいくらなんだよ!

 情状証人がいないのでいきなり被告人質問です。被告人は盗みについて「どこからも借りられるところがなくて返済の為、已むに已まれずやりました…」と、しおらしく答えました。借金は平成12、13年頃から始めて19年には500万近くあったといいます。

裁判官が言い放った「悪妻ですねっ」

 原因はパチンコでした。そして夫に内緒で退職金1500万も借金返済とパチンコにつぎ込み、更には次男に内緒で2つの銀行から次男名義でお金を借りていました!被告人のパチンコのせいで家族が地獄に突き落とされてバラバラになっています!

 裁判官が静かに語りました。「こんな昔話を思い出しました。昔の知り合いがね、パチンコにのめり込んで借金作ってね、会社潰してね、全てを失ったんですよ」

 「すみません……」と、しおらしく謝る被告人に裁判官の顔が変わりました!「謝れば済むって問題じゃないでしょー!退職金は使う、かっぱらうなんて……ないでしょー!」かなりご立腹です!

 ロッカーの合鍵作ってかっぱらって……あなたメチャクチャじゃないですか!反省しますで済むと思う?息子さんまで巻き込んで!息子さんが借金地獄になったらどうするの!?退職金もつぎ込んで!なんていう妻ですか!」とても熱いです!「退職金ってその後の人生どうやって使うか楽しみなものでしょ!? 何て言って謝ったんですか?」「ちゃんと働いて返すからと。」「それで許してもらえたの?」「怒るだけ怒って……でもまぁ夫婦になったもんだからしょうがねぇ、と。」本当に!? 

 反省している(風の)被告人に対し、「あなた悪妻ですねっ!ご主人の人生潰してますね!」と裁判官は最後まで怒り心頭でした。求刑は2年6月。

(文・長谷川零)

霞っ子クラブ

裁判所で知り合った女性2人による法廷傍聴グループ。事件報道のみでは飽き足らず、実際の法廷でどのような人間ドラマが繰り広げられているかを日々ウォッチングしている。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)、「霞っ子クラブの裁判傍聴入門」(宝島文庫)がある。

2009年06月09日  読売新聞)
この記事へのコメント
  • 匿名希望
    2009年06月10日 16:47

    いつも楽しく連載を読んでいます。

    久し振りに帰った実家で、ちょうどパチンコで全てを失った近所の人の話を聞いていたので興味深かったです。

  • 40代主婦
    2009年07月08日 09:29

    私が20代の時、当時40代だった父親の借金返済にコツコツと貯めた自身の2百万を当てた。

    それでも仕事サボって【パチンコ三昧】【借金三昧】で、家族に蔑まれ60歳で家から逃げ出した、サイテーな親。【強盗未遂】で6年務所にまで入ってたのに、こういう奴の反省って一時的なもので、一事が万事所詮“喉元過ぎれば”。

    弁護士の所まで行って3百万出して整理したのに、尚まだ借金を隠していたズルイ人間。
    こんな奴を家族に持ってしまったが為、ほんと人生最大の“不幸”。

    姑息で内弁慶で外面だけはいいから、周りの人間は簡単に騙される。生命力だけは人一倍あり人一倍長生きするだろう。(苦笑)
    死ぬまでに会う事があったら、思い切り殴ってやりたい。

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