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社説:新型インフル 政治主導の責任は重い

 新型インフルエンザ対策は、待ったなしの緊急課題である。要所要所で、「政治主導」による政策決定をし、パンデミックを乗り切っていく必要があるだろう。

 しかし、ワクチン接種回数をめぐる政策決定にはとまどっている人が多いのではないか。公衆衛生上の課題に、「政治家」「専門家」「官僚」が、どう役割分担して対処していくか。国民の健康や命にかかわるだけに政治判断の責任は重大で、適切なかじ取りが求められる。

 新型インフルエンザのワクチンは、当初、全員に2回接種が必要と考えられていた。季節性のインフルエンザと違って、人々に「基礎免疫」がないと思われたからだ。

 ところが、海外の試験でも、健康な成人を対象とした日本の試験でも、1回接種で多くの人に十分な抗体の上昇が見られた。厚生労働省が開いた専門家の会議では、季節性インフルエンザなどのデータなども勘案し、「13歳以上は原則1回接種」との意見で一致した。

 これに足立信也・厚労政務官が疑問を呈し、自ら選んだ医師3人と、「1回接種」をまとめたメンバー2人を招き、緊急会議を開催。これを基に、妊婦や中高生については新たに臨床試験を行うなどの方針を決め、接種回数の結論を先送りした。

 確かに、妊婦などは免疫反応が異なる可能性がないとは言えない。一方で、一定の年齢以上の人全般に「基礎免疫があるはずだ」と考えることにも合理性がある。

 「1回接種」にすれば、より多くの人に早めに打てる可能性が出てくる。早く接種回数が決まれば、現場も対応しやすい。一方で、妊婦らが「1回接種」で不十分だとすれば、重症化する人が増える恐れがある。

 不確実性がある中で、「時間をかけ、より正確なデータに基づいて決める」ことと、「急いで多くの人に1回接種する」ことの、リスクと利益をどうはかりにかけるか。難しい課題だが、こうした政治判断を示すなら、前もって妊婦らの臨床試験を考慮すべきだったのではないか。

 今後、臨床試験でどういうデータが出たら、どういう政策を導くのか。今からゴールを決めておく必要もあるだろう。結果が出てから解釈の議論に時間を費やす余裕はない。

 新型対策では、確かにこれまでの厚労省の対応に不備があった。ワクチンの優先順位の議論や、接種体制の構築、輸入についての検討も遅れた。改善すべき点は多々ある。

 ただし、目の前で感染が拡大している今、関係者が一丸となって迅速に対策を進めることが何より大事だ。そのために、厚労相は政治的指導力を発揮してほしい。

毎日新聞 2009年10月25日 0時25分

 

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