パチスロの負け、盗みで挽回だって
ある暖かい3月の火曜日。神戸地裁姫路支部に目当ての殺人裁判を傍聴に行く予定でしたが、時間に余裕がなく、泣く泣く諦め、居住地東京でモンモンとしていました。しかし諦めたものの、無意味にわき上がる衝動を抑えきれず(諦めが悪いです)、東京簡裁の窃盗裁判を2件続けて傍聴することにして、霞が関に到着。法廷に入りました。
被告人は昭和63年生まれの男子。ずんぐりむっくりした体形に青いチェックのシャツとチノパン。若いのに身柄も勾留されて正式裁判とは……。起訴状によると、今年2月に墨田区のDVD屋さんでDVDを20点(時価5万8880円)万引きしたとのことでした。万引き、多いですね。
こちらの被告人、簡裁で裁かれる被告人にしてはめずらしく、前科も前歴もありません。それなのになぜ万引き……?と思っていたのですが、どうも昨年の暮れから友人に誘われて始めたパチスロにハマってしまったそうなのです。そして少ない貯金も使い果たし、財布にはいつも小銭しか入ってないような状態だったとのことでした(by父の証言)。パチスロやりたさに、万引きした商品を売って現金に換えようと思っていたそうです。パチスロって恐ろしいんですね……。
「二度としません」は本当か
被告人質問では、万引きは今回だけじゃないということが分かりました。
「自分の負けを取り戻そうと、万引き、何度もやりました」
困ったもんです。
「パチスロ、1回ポッと出るから、また出るだろうなんて思うんだけど…今後はどうするの?」
という検察官の問いに対して
「もう絶対パチスロはやりません!」
と言い切っていました。
裁判長も念を押します。
「パチスロでトータルどれくらい負けてるの?」
「けっこう……」
「けっこうって、どれくらい?」←引き下がりません
「30万円くらい……」←ハタチにしては大金です
「で、お店にどれくらい損害与えたの?」
「70万円くらい……」←盗みすぎです
「ん〜、すると差額は40万円……身勝手な動機だよね。ホントにヤメられるの?」
「はい!」
元気よく安易な約束をした被告人には「遊興にふけり、金銭感覚が麻痺していた」として懲役1年が求刑されていました。
しかし、万引きをヤメられない被告人、ここのところホントによく目にします。原因はギャンブル、酒、さまざまです。万引きはスリルやおトク感を感じるからヤメられないのかもしれませんが、正式裁判でバッチリ前科がついてしまうリスクを考えて、逮捕される前に足を洗ったほうがいいんじゃないか、と思ったりする今日この頃です。
(文・高橋ユキ)
裁判所で知り合った女性2人による法廷傍聴グループ。事件報道のみでは飽き足らず、実際の法廷でどのような人間ドラマが繰り広げられているかを日々ウォッチングしている。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)、「霞っ子クラブの裁判傍聴入門」(宝島文庫)がある。
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- くぽ
- 2009年03月27日 18:18
高橋さんの記事をいつも楽しみにしています。
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