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強殺公判最終日2009年09月17日
■無期懲役判決にメッセージ「一生冥福を祈って」 市民から選ばれた裁判員6人が裁判官と話し合って決めた判決は、求刑通り無期懲役だった。和歌山地裁で初めて開かれた裁判員裁判は16日、赤松宗弘被告(55)に対し、「一生被害者の冥福を祈りながら罪を償ってください」という裁判員らの「メッセージ」が伝えられて終わった。裁判員は記者会見で「いい経験ができた」などと感想を語った。 判決言い渡しは、午前中の裁判官と裁判員が判決について話し合う評議(非公開)が長引いたため、午後3時開廷予定が14分遅れて始まった。 初公判の14日と同じような白の半袖シャツ、濃紺のズボン姿の赤松宗弘被告が証言台に進むと、成川洋司裁判長が「被告を無期懲役に処する」と言い渡した。赤松被告は背筋を伸ばして両手をベルトの下あたりで握り、やや下を向きながら聞いた。男性裁判員5人は厳しい表情で赤松被告をじっと見つめ、女性裁判員はうつむき加減だった。 続いて、隣に住む恩知靖子さん(当時68)の殺害を認定した犯罪事実や量刑の理由が読み上げられる間、赤松被告は腕を抱えて直立し何度もうなずいた。女性裁判員は、「(遺族が)被告の死刑を希望すると述べている」というくだりの直後、顔を上げて赤松被告を注視した。 最後に成川裁判長が「裁判員と裁判官からのメッセージをお伝えします」と前置きした上で、「現実から逃げることなく、一生被害者の冥福を祈りながら、罪をきちっと償って下さい」と赤松被告に語りかけた。赤松被告は「はい」と短く返事をした。 ◎谷岡次席検事/「工夫した立証 理解得られた」 閉廷後、和歌山地検の谷岡孝範次席検事と主任検事の古賀栄美検事らが、地検で記者会見を開いた。 冒頭、谷岡次席検事は「裁判員のご尽力に心から敬意を表します」と感謝。求刑通り無期懲役の判決が出たことについては、「地検として工夫した立証に裁判員の理解が得られたと考えている。弁護人も情状説明に努力され、裁判員は双方の主張を聞いた上で、きちんとした判断をされたと思う」と述べた。 古賀検事は「裁判員に必要な情報を的確に伝えられるかが不安だった。(公判での)質問を聞き、裁判員が事件に真剣に向き合っているのをひしひしと感じた」と話した。 今後の裁判員裁判への対応について、谷岡次席検事は「今回の公判を謙虚に検討し、よりよい立証方法などを工夫したい」と語った。 ◎主任弁護人ら/期間や質問時間 不十分の指摘も 赤松被告の3人の弁護人は閉廷後、和歌山市四番丁の和歌山弁護士会館で記者会見した。主任弁護人の藤井幹雄弁護士は「求めていた判決(懲役25年程度)でなく残念だが、我々が訴えたことを裁判員が受け止めて、あのような判決になったのだろう」と話した。控訴については「刑の確定まで2週間ある。被告自身が落ち着いて考えること」とした。 裁判全体については、「裁判官が進行を急がせる姿勢に疑問を感じた」と振り返り、3日間という期間にも「調書を読み上げるだけの裁判ならそれですむかもしれないが、口頭主義で、公判の場で被告に直接証言させるのには短すぎる」と話した。 山本彰宏弁護士は、判決で「被告はこれまで犯罪とは無縁」と指摘されたことを評価し、裁判員が被告の性格を知ろうと直接質問したことが影響したとの見方を示した。その上で、「被告人質問の時間、裁判員の質問時間を十分に確保すべきだ」と訴えた。 ◎傍聴人/受け止め様々 判決を傍聴した人の受け止め方はさまざまだった。ニュースでこの裁判を知って来たという大阪市の大学院生、二ノ宮征一郎さん(24)は「判決の時、裁判員が被告の顔を一斉に見つめていたのが印象的だった」と話した。 和歌山市の高校3年、中裕豊さん(18)は判決を好意的に受け止めた上で「殺人した後にパチンコをやるなんて考えられない行動」と話した。 裁判に疑問を呈する人もいた。大学教員の男性(50)は「裁判員が被告に恨まれるかもしれないし、遺体の写真を見せるのも強烈。重たい事件を裁判員にやらせるのはやめた方が良い」と語った。 ◎土本・筑波大名誉教授/量刑重い傾向 正義感の表れ 元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(刑事法)はこれまでの裁判員裁判について「全国的に裁判員裁判の量刑は従来より重い方へ流れている。裁判員の量刑感覚に国民の正義感が表れたものだ」と分析。そのうえで今回の判決について「裁判員裁判の中では最も重い刑ではあるが、求刑が死刑ではなかったことで、裁判員の精神的負担はそれほど大きくはなかったと思われる。だが、死刑か無期懲役かの判断を迫られる事件では裁判員の負担はものすごく大きいだろう」と話した。
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