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強殺公判2日目/遺族・被告に心情問う2009年09月16日
■きょう判決/量刑の判断は? 和歌山地裁での裁判員裁判2日目の15日、裁判員が初めて法廷で発言し、亡くなった女性への思いを遺族に問いかけた。被告にも次々と質問を投げかけ、返答する様子を真剣に見つめた。公判は、検察側が無期懲役、弁護側が25年程度の有期刑に被告を処するよう求めて結審し、判決は16日午後3時から言い渡される。 ◆被告人質問/犯行後「眠れなかった」 被告人質問は午後1時15分から始まった。 藤井幹雄弁護士はまず、証拠書面のファイルを証言台に置いて恩知靖子さんの遺体写真を見せた上で、「亡くなった恩知さんのことを忘れないで答えてください」と赤松宗弘被告に語りかけた。 遺族への気持ちを問われた赤松被告は「申し訳ない気持ちで胸が痛みます」と述べたあと、証言台から立ち上がって遺族らの座る傍聴席を振り向き、「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。 弁護人 いつごろから空き巣に入ろうと思ったのですか。また、なぜですか。 被告 4月ごろ。仕事がなく不安な気持ちで過ごしていたから、どこか家に入って盗(と)ったろうと思いました。 弁護人 なぜ恩知さんの家だったのですか。 被告 貴金属をたくさん持っていると近所のうわさで知っていたので。 また、事件当日について、パチンコで使いすぎて所持金が数十円ほどになり、犯行を決意したことなどが語られ、傍聴席の遺族の一人は両手で顔を覆い目頭をティッシュで押さえていた。 弁護人 (逃亡先の富山県から同居男性らに)電話で「死ぬ」と伝えたときの気持ちは。 被告 警察に捕まえてほしかったような。頭の片隅にあったような。自殺する勇気がないから。 古賀栄美検事は、赤松被告に犯行時から犯行後の心境について重点的に聞いた。 検察官 事件後に逃げ出した時に、恩知さんを殺して手に入れた金でお兄さんとパチンコをしてますね。恩知さんのことは思わなかったのですか。 被告 兄貴に千円渡して自分も千円使いました。兄貴を少しでも遊ばしたろと思って、その時は忘れていました。 6人の裁判員全員が犯行時の心境や事件直後の行動などについて赤松被告に質問した。 男性裁判員(傍聴席から見て左端) お兄さんに事件のことを話してからパチンコに行ったんですか。 被告 兄に事件のことを告白すると、パチンコに誘われました。店でうろうろする兄に金を渡しました。 裁判員 恩知さんが友達と一緒に帰宅したら、殺していましたか。 被告 殺していませんでした。謝っていたと思います。 裁判員 1人だから殺したのですか。 被告 そうです。 男性裁判員(左から3番目) そもそも兄に会いに行った一番の目的は何ですか。 被告 自殺を止めてほしかったんです。 男性裁判員(左から5番目) 犯行後に自宅で寝泊まりしていたと思いますが、その間はどういう心境だったのですか。 被告 同居の男性がいたので気づかれないように装うので手いっぱいでした。 裁判員 眠れましたか。 被告 眠れませんでした。 ◆論告求刑「無期懲役」/「残忍だが死刑はためらい」 古賀検事は冒頭陳述と同様に、検察官席の前に譜面台を置き、法壇に並ぶ裁判員・裁判官と向き合って論告求刑を始めた。 まず、強盗殺人罪の法定刑が「死刑か無期懲役」と定められており、例外的に減刑されることもあると説明した上で、今回の事件は「有期懲役にする理由は全くない」と指摘した。 量刑の具体的な検討に入り、赤松被告が恩知さんを「絶対に殺そう」としつこく首を絞めたとして「残忍で人間性のかけらさえ感じられない」と断じた。「首を絞められて、被害者がどんなに恐怖を感じたか、想像していただきたいと思います」と裁判員らに語りかけた。 さらに、恩知さんに見つかった直後に殺害していることから「極めて簡単に命を奪っており、温厚そうに見えたかもしれませんが、これが(赤松被告の)本当の姿です」と訴えた。 ただ、計画的に殺害したとは言えない▽犯罪歴がない――などから、遺族の被害感情が厳しいことを考慮しても「死刑を求めることにはためらいがある」として、無期懲役を求刑した。 ◆最終弁論「有期刑を」/「深く後悔 情状酌量を」 弁論には山本彰宏弁護士が立ち、「無期刑は重すぎる」として情状酌量による懲役25年程度の有期刑を求めた。 山本弁護士はまず無期懲役について約1700人程度いる無期懲役受刑者のうち仮釈放されたのが年に数人しかいない、などのデータをモニターに映し、「将来に希望を持ちづらい刑罰だ」と強調した。 犯行に計画性はなく、殺意も突発的だったと改めて指摘。逮捕後は「本来は不利なことを隠そうとするが、赤松被告は素直に状況を(警察に)話した」と述べた。 現在55歳の赤松被告が25年という有期刑を終えたと仮定した上で、「80歳で社会に戻るつらさもまた、背負わなければならない」と述べた。 山本弁護士は最後に「裁判員のみなさん。厳しい処罰を下すことだけが市民感覚ではない。刑を受けるのは赤松という一人の人間です」と裁判員一人一人の顔を交互に見ながら訴えた。 最後に証言台に立った赤松被告は、書面を広げて「大それた事件を起こし、謝っても許されるものではありません。恩知さんや身内に悲しませることをして、心から深く反省しています」と涙で言葉を詰まらせながら話した。
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