ロシア連邦軍との戦闘で市内の8割超が破壊されたチェチェン共和国の首都グロズヌイは今、「戦後」の再建ラッシュに沸いている。24時間態勢で工事が進み、政府省庁や高級デパート、サッカー場などが次々と完成。「復興には少なくとも20年かかるといわれたが、短期間でここまできた。5年後には経済の一大拠点にしたい」。フチエフ市長(38)は自ら運転する車で市内を案内しながら、自信満々に語った。
市民生活も最悪期を脱した。グロズヌイ郊外に住むスルタンさん(61)一家は長引く紛争で収入源を失ったが、今では牧畜業が軌道に乗り、月平均1万5000ルーブル(約4万5000円)を得るようになった。自宅を改修し、家具を買い替え、昨年には初めてコンピューターを購入した。
ただ、急速な「経済復興」は、チェチェン情勢の不安定化を懸念する連邦政府がつぎ込む莫大(ばくだい)な予算に支えられているのが実態だ。
地方行政機関に以前勤務していた女性は、「(復興費の)9割以上が連邦予算で占められているはずだ」と話す。
グロズヌイ市によると、昨年はロシア内外から30億ルーブルの民間投資が集まったが、世界的な金融・経済危機の影響で今年は激減しているという。
また石油資源が豊富なカスピ海に近いチェチェンでは、ソ連時代に年2800万トンの石油を生産していたが、2度にわたる紛争の影響でここ数年は年100万トンレベルにとどまり、経済的自立の道は遠い。生産の落ち込みを巡っては、カディロフ共和国大統領周辺による闇取引の影響もささやかれる。
チェチェンには40万人超とされる紛争避難民の帰還が進み、共和国の人口は現在約120万と、第1次紛争(1994~96年)前のレベルに回復した。だが、雇用の機会は少なく、失業率は30%を超えている。
中でも若者の失業は深刻で、イスラム過激主義が浸透する温床になりかねない。
ロシアのメドベージェフ政権は反政府武装勢力の封じ込めに懸命だが、「生活苦から50~100ドルの報奨金で自爆テロを引き受ける若者がいる」(ロシア誌エクスペルトのシラーエフ国際部長)とされる現状は、チェチェンの将来に暗い影を投げかける。【グロズヌイで大前仁】
毎日新聞 2009年10月9日 東京朝刊