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社説

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郵政新社長―民から官へ、逆流ですか

 「官から民へ」を掲げた小泉改革の本丸だった郵政民営化を、鳩山政権が逆回転させ始めたことを象徴するような人事である。

 亀井静香・郵政改革担当相は、日本郵政グループの持ち株会社である日本郵政の次期社長に元大蔵(現財務)事務次官の斎藤次郎・東京金融取引所社長を起用すると発表した。

 前日には政府が郵政改革見直しの基本方針を閣議決定。それが自らの経営方針と相いれないことを理由に、西川善文・日本郵政社長が会見で辞意を表明したばかりだ。

 政権交代した以上、公約に沿って郵政改革を抜本的に見直し、郵便局網の公共性重視に軸足を置いて軌道修正することは、うなずける。それでも、将来の国民負担を避けるための経営改革を断行し、同時に民間との公平な競争を確保するという民営化の基本原則は守られるべきだ。

 そのためには、民間出身の優れた経営者の下で組織を活性化させることが必要条件ではあるまいか。

 ところが、西川氏の後任は官僚の代名詞のような事務次官OBの斎藤氏だというのだから驚く。政治主導で決めたこととはいえ、「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」とした鳩山政権の政権公約の理念に背くのではないか。

 西川氏が辞意表明に追い込まれた経緯からして、後任の社長を引き受ける人が民間から出てくるとは考えにくい状況だった。火中の栗を拾う人が他にいないということだろうが、斎藤氏は今は民間人であるにせよ、天下り先の金融取引所のトップであり、「剛腕の大物次官」と呼ばれた人物だ。これでは社長も経営も「民から官へ」ですか、と問わずにはいられない。

 24万人の大所帯である日本郵政グループが、株式会社の形は維持されても、実態は官業へと後退するのではないか、と心配でならない。

 不思議なことに、民主党内に目立った反発は出ていない。斎藤氏は細川政権下で新生党代表幹事だった小沢一郎・民主党幹事長と組んで国民福祉税構想をかつぐなどした盟友である。今回の人事にそうした背景を感じる人もいるだろう。

 斎藤氏はきのうの記者会見で「小沢さんからは全く話はなかった」とし、亀井氏の要請だったと述べた。

 いずれにせよ、この人事は旧特定郵便局長とつながりの深い国民新党や亀井氏の言いなりとも映る。亀井氏は斎藤氏について「郵政民営化見直しに関する考え方が連立3党と一致している」ことを起用の理由とした。

 だが、閣議決定した郵政見直しの方針や今回の社長人事が民営化を柱とする郵政改革とどう両立するのか。鳩山由紀夫首相の明確な説明を聞きたい。

普天間移設―新政権の方針を詰めよ

 米海兵隊の沖縄・普天間飛行場は県内の名護市辺野古へ移設するのが唯一の道であり、代替案はない。訪日したゲーツ米国防長官は、米国の基本的立場をそう強調した。

 辺野古への移設は日米双方の前政権が合意したことだ。政権交代に伴ってそれを検証し、必要があれば見直しを提起するのは当然のことだろう。オバマ政権は検討の結果、現行案がベストとの判断に立つ。さて、鳩山新政権はどうするのか。

 「私どもには新しい政権の考えがありますから、時間をかけながらいい結果を出したい」。鳩山首相は記者団にこう語った。北沢俊美防衛相、岡田克也外相ともども、会談ではゲーツ長官にそうした意向を伝えた。

 そもそも民主党は普天間飛行場の県外、もしくは国外への移設を求めてきた。米国の立場はそれとして、日本側が新たな可能性を含めて検討しなおしたい、それまで時間を貸してほしいというのは無理のないことだ。

 ただ、それが単なる結論の先送りであってはならない。首相は来年1月の名護市長選の結果を見極める意向も示している。地元の民意を尊重するのは大事にせよ、迫られているのは新政権の決断であり、国民を説得できる結論であることを忘れてはなるまい。

 あらゆる選択肢を真剣に探り、その結果を国民の目に見えるようにしてもらいたい。そのうえで方針を固め、実現に動くことだ。住宅密集地にある普天間飛行場の危険性は早く除きたいし、米国の忍耐にも限りがある。計画を見直すのであれば、今度こそ実行できるよう国内をまとめ、米国を説得できなければならない。

 国防長官の発言を聞く限り、米国の姿勢はかなり硬そうだ。辺野古への移設が実現しなければ普天間は残り、海兵隊8千人のグアム移転など、沖縄の負担軽減にもつながる在日米軍の再編計画全体が動かなくなるという。

 その危機感は理解できる。だが、それでもなお、貴重な自然の残る海を埋め立て、ただでさえ米軍基地が集中する沖縄に新たに恒久的な基地をつくることに、国民や県民が納得しているとは言い難い。その思いをどうくみ取り、政権交代に寄せた人々の期待に応えるか。それが首相に迫られている。

 この問題での日米の意見の相違が同盟関係全体をきしませるような方向に向かうことは避けなければならない。同盟の根幹は両国の基本的な利害の一致であり、相互信頼である。普天間問題が突出して両国関係を傷つけるとしたら、日米双方にとって不幸だ。

 首相には、来月訪日するオバマ大統領との会談を、日米関係の大局のなかで問題の着地を探る出発点にしてもらいたい。そのためにも、政権としての基本方針を早期に詰めるべきだ。

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