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社説2 元次官に郵政託す「脱官僚」(10/22)

 亀井静香郵政・金融担当相が、辞任を表明した西川善文日本郵政社長の後任に、元大蔵事務次官で東京金融取引所社長の斎藤次郎氏を起用する人事を発表した。鳩山由紀夫政権は「官僚依存からの脱却」を掲げて滑り出したはずなのに、郵政のかじ取りは実力大蔵次官といわれた斎藤氏に任せた形である。

 人事は適材適所であり、元官僚を除外する必要はない。とはいえ、この人事は官僚出身者の天下りを排除する民主党の従来の方針や行動と矛盾する。鳩山首相は「斎藤氏は退官から14年もたっている」と話したが、その説明では納得できない。

 1993年に大蔵次官に就任した斎藤氏は、非自民の細川護熙連立政権で当時の新生党代表幹事だった小沢一郎民主党幹事長と組み、消費税率を3%から7%に引き上げる「国民福祉税」の構想を打ち上げたが、事前の調整不足で頓挫した。

 自民党政権に戻ると小沢氏と親密だった斎藤氏への風当たりは強まった。退官後、他の次官経験者のように政府系や民間金融機関のトップにはならなかった。それでも東京金融先物取引所(現東京金融取引所)から郵政社長に転じるなら、退官後に複数のポストを転々とする「わたり人事」と見られるのではないか。

 亀井氏は斎藤氏を「長い間の友人」と評した。官僚出身者の起用に対する批判にも「役人をやったら悪い人というのはおかしい」と反論した。斎藤氏も「元官僚という意識はないつもりだ」と答えた。

 小沢氏との関係に配慮した面もあろう。だがこれでは、鳩山政権が売り物にする「脱官僚」路線との食い違いに対する疑問を晴らせない。

 野党時代に民主党などは元財務次官の武藤敏郎日銀副総裁の総裁昇格案を「財政と金融の分離が保てない」と国会で否決に追い込んだ。日本郵政グループも国債を大量に保有し、財政政策にも影響力を及ぼす。斎藤氏の人選には問題がないというのだろうか。

 政権の意に沿わない民間出身の西川氏を任期途中で追い出し、大蔵次官経験者を三顧の礼で迎え入れる。そんな組織が民間会社なのか。郵政民営化を撤回し、官業に戻すなら、そうはっきり説明すべきだ。

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