8月25日、九戸村役場に、村内唯一の社会福祉法人「九戸福祉会」の関口誠治理事長らが岩部茂村長らを訪ねた。村から打診を受けていた無床化された県立九戸地域診療センターの空きスペース利用について、関口理事長は答えた。「経営上、難しい」。村も予想した通りの結果。会談は30分ほどで終わった。
無床化した5センターでは、空きスペースや施設の民間移管などが模索されている。花泉地域診療センターは、一関市内の医療法人白光への移管が、9月に内定した。大迫(花巻市)や紫波(紫波町)でも、地元市町が中心となって検討を開始。県立沼宮内病院(60病床)がある岩手町も、来年度予定の無床化を前に、民間移管を探る動きが出ている。
九戸村はこうした動きから取り残されている。地域密着型介護老人福祉施設27人▽介護老人保健施設36人▽短期入所生活介護施設27人--。空室となった九戸センター2階を福祉施設に活用した場合、床面積から認められる最大の入所者数を示した医療局の試算だ。だが、九戸福祉会によれば、入所率を100%としても、人件費だけで年間1000万円程度の赤字になるという。同会が運営する折爪荘の野里典美施設長は「新たにスタッフを配置せねばならず、どうしてもコストが合わない」と打ち明ける。
一方、内定した花泉センターも順風満帆とはいかない。「試算通り収益が得られるのか」「地域医療を任せられる法人なのか」。今月7日の県議会環境福祉委員会で、県議の厳しい指摘が相次いだ。監査報告にある監査人の署名が異なる、社会福祉法人の準備状況を示す書類がずさん……。相次ぐ不備に審議は23日に続行されることになった。
民間移管を巡る騒がしさを横目に九戸村は9月、九戸センターの維持を第一に掲げた。当直しないことを条件に医師1人が就任し、訪問診療を復活したことや、他に医療機関がないこともある。同村住民生活課の川戸茂男課長は言う。「移管先が撤退すれば無医村になってしまう。ギャンブルはできない」【山口圭一】
毎日新聞 2009年10月21日 地方版