高松で働き始めると同時に住み始めたアパートを引き払った。荷造りはほぼ徹夜。時間ぎりぎりで終わり、段ボールや家電が運び出されると、前日まで自分が住んでいたとは思えないがらんとした部屋が残った▼先日、東京で学生時代の下宿先の前を通ったことがある。当時のことが思い出され、ほんの数年前をなつかしく思う一方、見知らぬ人の表札を見ると何だか切なかった▼仮住まいでも、家はその時々の人生と不可分だ。社会人としてスタートを切ったばかりの私と過ごした小さなワンルームアパート。掃除機とぞうきんでほこりを取ったあと、最後にもう一度見回した。「お世話になりました」--。心の中で小さく唱え、鍵を閉めた。【松倉佑輔】
毎日新聞 2009年10月20日 地方版