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社説:長妻厚労相 得意分野で状況突破を

 子ども手当の財源確保に四苦八苦し、後期高齢者医療制度廃止を3年棚上げにするなど、期待値が高いだけに苦戦を強いられている印象が強いのが長妻昭厚生労働相である。反対していた日本年金機構も一転して来年1月に発足することになった。自公政権時代の施策が足かせとなっている面はあるが、得意分野で状況を突破し、課題山積の社会保障改革に取り組んでもらいたい。

 民主党の公約は社会保険庁と国税庁を統合して「歳入庁」を新設することで、年金機構には当初から反対だった。しかし、政権が発足した時点で、すでに民間からの採用内定者が1078人もおり、移転先のオフィスも決まっていることから、苦渋の選択をせざるを得なかった。

 社保庁は全国に300以上の出先機関があり、職員の大半が労働組合に加入している。過去に年金記録を紙台帳からオンラインに切り替える際、職員が反発し「コンピューター入力は1日5000タッチまで」「45分働いたら15分休憩」などの覚書を交わしてきたという。そうしたツケが噴出したのが年金記録問題とも言われる。長妻厚労相は10年度予算に約1800億円を投じて「年金記録対応チーム」を発足させ、膨大な全件記録の照合作業に当たらせるという。たしかに国民の信頼がなければ年金制度は成り立たず、「消えた年金」などの解明は不可欠だ。しかし、負の遺産の清算にかける時間と労力(予算)に余裕がないことも国民に理解を求めるべきではないか。

 一方、新組織移行のトゲとなっているのが、懲戒処分歴のある職員の扱いである。対象となる約790人は厚労省や他省庁への配属を進めているが、それでも数百人規模の分限免職(解雇)を出す可能性がある。完全失業者数360万人という厳しい雇用状況からすればまだ公務員は恵まれているようにも思えるが、対象者には業務に精通したベテランが多く、年金問題とは関係ない交通違反などで処分された人も含まれている。歴代社保庁幹部の監督責任は問われたことがないのにである。

 年金機構は歳入庁創設までの「つなぎ」と長妻厚労相は言うが、1000人以上の民間の血を入れる改革には期待すべきことも少なくない。民間の経営センスを活用し、業務の外部委託や記録管理システムの電子化などを進めれば、合理化や利便性の向上を図ることができるだろう。民間から採用される職員のうち350人は管理職である。企業の人事・労務部門の管理職だった人が多く、不祥事が続いた社保庁職員を使いこなして長年積もったあかをふるい落とすことが期待される。年金への信頼回復の第一歩にしたい。

毎日新聞 2009年10月19日 0時25分

 

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