2009年10月18日 2時30分
検察が「死刑に準ずる」と判断した無期懲役事件を「マル特無期事件」と指定し、仮釈放に際して特別に慎重な審理を求める運用をしていることが分かった。死刑の求刑に対し無期懲役が確定した場合などで、指定事件の対象者は08年までの10年強で380人に上る。「事実上の終身刑」に近づいているとされる無期懲役受刑者の仮釈放審理に大きな影響を与えているとみられる。
最高検が98年6月、堀口勝正次長検事(当時)名で全国の地・高検に通達を出した。
無期懲役受刑者の相当数が有期刑最長の20年(当時、現在は30年)を下回って仮釈放され、再犯も散見されるとし、「特に犯情が悪質な者には従来の慣行にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使をすべきだ。仮釈放に対する意見はより適切で説得力あるものとする必要がある」としている。
指定の対象は死刑求刑に対して無期判決が確定した場合や、特に悪質と判断した事件、再犯の可能性がある場合など。判決確定時や服役中の無期受刑者が仮釈放の審査対象になった場合に調査票を作り、刑務所に指定結果を伝えた上で、検察庁内で書面で引き継ぐ。
通達の背景には、オウム真理教の一連の事件で、林郁夫受刑者について検察が「自首により事件の真相究明がなされた」と異例の減軽理由を挙げて無期懲役を求刑し、1審判決(98年5月)で無期刑が確定した経緯がある。凶悪事件の服役囚が仮釈放を許可される事態に備えたとみられる。
無期懲役受刑者が仮釈放を許可されるまでの平均期間は98年の20年10カ月から、08年は28年10カ月に延びた。仮釈放は刑務所長の申し出により、全国8カ所の地方更生保護委員会が審理する。受刑者本人への面接や帰住地調査、被害者の心情調査、検察への意見照会も含めて判断する。
検察官が反対しても許可できるが、99~08年の無期懲役受刑者に対する仮釈放許可率は、検察官が「反対でない」とした場合が76%だったのに対し「反対」の場合は38%だった。
死刑に次ぐ重刑で、刑期の定めがなく仮釈放による出所のみが認められる。受刑者は増加傾向で、08年末には1711人と99年末より7割増えた。刑法は10年で仮釈放が許されると定めているが、90年代後半からは抑制的に運用されており、08年までの10年間で68人が仮釈放を許可された半面、121人が受刑中に死亡している。
最高検が全国の地・高検に「マル特無期事件」の指定に関する通達を出した98年から08年までに、無期懲役刑で服役した受刑者は940人。この間にマル特に指定された380人は約4割に当たる。指定が刑の確定時に限らないため一概に比較できないが、無期懲役受刑者の相当数が指定されている可能性がある。無期懲役刑が実質終身刑化しつつある背景の一つと指摘できる。
仮釈放は地方更生保護委員会が許可権を持ち、検察官の意見は審理の一要素に過ぎないが、大きな影響を与えていることは確かだ。それにもかかわらず、検察は通達について積極的に公表してこなかった。
仮釈放を巡っては、08年に保岡興治法相(当時)が運用の透明化を掲げて勉強会を開催。今年4月からは、服役が30年を超えた無期懲役受刑者に仮釈放審理を実施することを決めた。政権交代を果たした民主党も、政策集で終身刑の検討を含む刑罰の見直しや、仮釈放制度の客観化・透明化を図るとしている。
こうした流れの一方、無期懲役受刑者の実際の刑の長短について、検察が通達の形で大きな影響力を及ぼしていることについては、その是非を含め、ほとんど議論されていない。法務・検察には、議論の入り口として、通達の位置づけや運用のあり方についての情報公開が求められる。