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子どもを生みたくなる国に変わるための処方箋

ゲスト:渥美由喜氏(東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部
長)
渥美由喜氏
渥美由喜氏
 少子化が今日の日本が直面する最も深刻な問題の一つであることは言を俟たない。国立社会保障・人口問題研究所の見通しでは、現在の出生率がこのまま続けば、日本の人口は中位推計で2050年には9,515万人に、2100年には4,771万人にまで減少するという。
  
 その間も高齢化が確実に進むことを考えると、現役世代の社会保障負担がどれほど重いものになるかは想像に難くない。そればかりか、天然資源に乏しい日本にとって、人的資源の減少が国力そのものの低下に直結するのも避けられないだろう。
  
 しかし、日本とほぼ同時期に出生率の低下に見舞われた欧米諸国の多くが、子育て支援など様々な少子化対策によって出生率の回復に成功しているのに対し、日本は依然として先進国中最低水準の出生率に喘いでいる。
  
 少子化問題に詳しい渥美由喜氏は、自民党政権下では社会保障政策が高齢者対策に著しく偏っていたため、少子化対策に十分な財源が回ってこなかったが、子どもは社会で育てるという考え方を前面に打ち出した民主党が政権についたことで、少子化対策も改善に向かうことが期待できるのではないかと語る。
  
 民主党はかねてより「チルドレン・ファースト(子ども第一)」を謳い、子育て支援を重視してきた。マニフェストや政策集にも、子ども手当のほか、出産一時金の助成、保育サービスの充実、ワークライフバランスの実現等々、子育て子援や家族支援に関する政策メニューが多く並んでいる。
  
 なかでも、子ども一人当たり月額2万6千円を中学卒業まで支給する「子ども手当」には、子どもを持つことの最大の不安要因であった経済的負担を軽減する上、これまでの片働き(専業主婦)世帯優遇から共働き世帯支援への明確な政策転換が感じられると、渥美氏はこれを肯定的に評価する。
  
 しかし、民主党が子ども手当を始めとする子育て支援策を実施したとしても、日本の子育て支援はまだOECD加盟国の平均程度に過ぎない。むしろ、これまでの日本の子育て支援が、先進国としては余りに貧弱すぎたというのが実情なのだ。
  
 経済的支援についてはある程度必要なメニューが出そろった感があるが、まだまだ日本が抱える課題は多い。特に、保育所の増設や保育サービスの充実、育児休暇の取得率やその延長にあるワークライフバランスの充実など、子育てや仕事、家庭の役割分担といった家族のあり方そのものを、市民一人ひとりがどう捉えるかに課題があると、渥美氏は指摘する。
  
 実際、日本ではまだ公的な保育サービスが貧弱なため、共働きをしようとすると、無認可の保育所に高いお金を払って子どもを預けなければならない。また、日本はサービス残業を含めるとEU諸国と比べて年間労働時間が突出して長い上、育児休暇の取得率も男性にいたっては1パーセント台だ。制度としては欧米並みに整備された労働基準法や育児休業制度がありながら、その権利を行使できない「空気」の問題にどう対処していくかは、大きな課題として残る。いくら経済的な子育て支援を充実させても、これではワークライフバランスなど画に描いた餅になってしまう。
  
 渥美氏と、子育て支援からワークライフバランス、そして、一見少子化とは無関係に見える婚外子差別の撤廃や選択的夫婦別姓にいたるまで、民主党の少子化対策の中身を徹底的に検証し、その課題を考えた。 

まずは先進国レベルの子育て支援を

神保: 民主党の政策で最も目玉となっているのは、中学卒業まで子ども一人あたり2万6千円を給付する子ども手当でしょう。渥美さんは、この政策をどう評価されていますか?
  
渥美: まず、現行の児童手当は所得制限があるのですが、今度の子ども手当はそれがありません。所得の高い人に給付することに批判はありますが、そもそも子どもは親を選んで生まれてきたわけではありません。理念として、子どもは社会全体で育てるべきなのです。ですから、今度の子ども手当は基本的に子どもに給付するという考え方なので、所得制限が外れることになりました。
  
 また、配偶者控除や扶養控除をなくして、その部分を財源の一部にして子ども手当にするというのは、これまでそれらの控除によって優遇されていた片働きモデルから、共働きモデルへ移行していこうとする社会理念の大きな変化です。
  
神保: 現行の児童手当は、子どもの年齢や数でもらえる金額が変わるのですが、多くて子ども一人当たり1万円の給付です。それに対して、今回の民主党の子ども手当は一律で子ども一人2万6千円が給付されます。この2万6千円という金額は国際的に比較してどうなのですか?
  
渥美: かなり高い水準です。この金額はフランスやスウェーデンといった子育て支援が充実した国と比べても遜色ありません。ただ、子育て支援に力を入れている国は、他にも子育てに関するサービスに財政投入しているので、子ども手当を導入しても、
対GDP比でOECDの平均くらいの財政支出に過ぎません。
  
神保: 数字を補足すると、子育て政策の財政支出の対GDP比はOECD30カ国の平均が2.3%くらいあるのですが、日本は今まで1.2%ほどでした。日本がこれから子ども手当で子ども一人に2万6千円を給付しても、約2.2%とOECDの平均にようやく達する程度に過ぎません。ちなみに少子化対策によって少子化に歯止めをかけることができたフランスは3.8%、イギリスも3%台です。
  
宮台: EUの先進国は3%台がほとんどです。日本を先進国とするならば、子ども手当によって2.2%まで上がったとしても、まだ先進国では最低レベルということになりますね。
  
神保: 次は子ども手当の支給方法を見ていきたいのですが、現金支給という形をとると、子育てとは関係ないことにもそのお金を使うことができてしまいます。それよりも子育て以外の目的には使えない給付の仕方、例えばバウチャーや控除の方がいいという意見もありますが、渥美さんはこれに関して子育て支援の観点からどのようにお考えですか?
  
渥美: 私は現金よりバウチャーの方が絶対いいと思っています。子どものためのお金なのだから、子どものためのサービスにしか使えないというのは当たり前の話です。
  
 バウチャーは、基本的に使途と目的が明確になったサービス引換券として配布するのが一般的ですが、イギリスのように政府が子育てサービスの一覧をオンライン化してそこから使いたいサービスを選択できる制度も可能です。現金ではなくバウチャーになったからといって、民主党は公約違反になりません。
  
神保: とはいえ、民主党は直接給付を強く意識しています。というのは、民主党にとって子ども手当は経済対策の意味合いも持っていて、手当てを通じて家庭の可処分所得を増やすことに目的の一部があるからです。つまり、家庭の可処分所得を増やし、消費を増やしてもらうことで、内需主導でお金が回っていくことを意図しているということです。その考え方に対しては、どうお考えですか?
  
渥美: 中学生までの子どもがいる世帯と高校や大学に通う子どもがいる世帯では、明らかに後者の負担の方が大きくなるため、現金給付だと前者の世帯は将来にかかる費用に備えて、給付金を貯蓄に回すことになってしまうでしょう。必ずしも消費につながらない可能性が高いということです。バウチャーにしてサービスにお金を回す方が、保育サービスや教育業界が活性化し、新規産業の創出や経済の活性化につながると思います。
  
神保: ここまでお金の問題を中心に扱ってきましたが、もう一つ出生率があがらない理由の中に、日本が子どもを育てにくい国であるという現実があることも確かです。そうなってしまった原因は一体どこにあると思いますか?
  
渥美: 日本はフランスやスウェーデンといった子育て先進国に比べて20年近く少子化対策が遅れています。その遅れの原因は高齢化対策を重点的に行い、少子化対策にお金を使ってこなかったところにあります。
  
神保: そのアンバランスさが日本の特徴だったということですね。そうすると、家族政策に予算を増やせば、少子化の原因の主なものは取り去ることができるということになりますね。

婚外子差別撤廃や選択的夫婦別姓も少子化対策

神保: 少子化問題を考えるテーマとして、民主党が政策集に書いている婚外子の差別の撤廃と選択的夫婦別姓を考えたいと思います。ただ、婚外子差別といっても現在あるのは、実子に対して婚外子は2分の1の相続権しかないという相続差別だけなのですが、そもそも婚外子という識別自体と、それを支える日本の戸籍制度に問題があるという見方もあるようです。
  
 選択的夫婦別姓の問題は、日本では結婚した場合、どちらかの姓を名乗らなくてはならないことになっていますが、実際は約96%の夫婦が男性側の姓を名乗っています。選択的夫婦別姓というのは結婚の際、自分の姓を維持することも選択できる権利を、民法の改正によって確保しようというものです。
  
 婚外子差別や姓を変えなくてはならない問題は、結婚のハードルを高くする一要素だと思うのですが、これは少子化問題という意味でどれくらい影響があるのでしょうか?
  
渥美: 今、日本では婚外子が2万人いると言われています。婚外子差別は、婚外子の人権や中絶されている子が生まれてくる権利の観点から整理すべき問題だと私は考えています。中絶件数は統計で把握できているだけでも毎年30万前後あり、統計で把握できない数を含めると60万件くらいあるのではないかと思っています。これには様々な理由があると思いますが、その1つに婚外子差別の問題があって、婚外子となる子を産んでしまうと、その子が不幸になると思い、産まない選択をせざるを得ないことはあるでしょう。
  
 また、結婚したくはないけど、子どもが欲しいという女性は大体30万人いると言われています。そういう人は平均で1.9人産みたいと言っているのですが、仮に彼女ら全てが子どもを産んだとすると、潜在的に78万人の子どもが生まれる可能性があるということになります。しかし、これも中絶のときと同様に婚外子差別を考えて、子どもを作るのを逡巡している間に、年齢が上がってしまい子どもを生む機会を失ってしまうということがあります。このような社会は個人の選択に対して中立的ではありません。
  
 少子化対策は、子どもたちが誰もが生まれてきてよかった、この国で育てられてよかったと思えるような国づくりだと思っています。生まれた段階からすでにあるような差別はすぐに直すべきですね。
  
神保: 現在、年間の出生数が100万人程度ですから、中絶件数が60万件というのは大変な数です。
  
 もともと非嫡出子の相続差別が最高裁まで争われた結果、合憲の判断がなされましたが、その理由というのが、法律婚を守るためには婚外子に一定の差別があるのはやむを得ないという否定的な容認でした。夫婦別姓の話も法律婚を守るための議論と似ていて、夫婦別姓にすると法律婚や家族制度が壊れてしまい、日本が日本でなくなってしまうかのような議論をする人も多くいます。
  
宮台: 夫婦別姓を導入すると、家族の絆が弱まる、家族制度の根幹に触ると思う人は多いですね。しかし、そこでそのような人たちが問題にしているのは、家族とはこういうものだという自分の実存と結びついた家族イメージを、実は保とうとしているのです。実際、何が家族的であるのか、何が相互扶助の実質を最も発揮できるスタイルなのかを検証して、特定の家族形態を守ろうとしているのではないのです。だからといって、実証的なデータをもって、その不合理性を指摘しても、何も始まらないので、そこが難しいところですね。
  
 ただ、社会学的な処方箋は、単純に「慣れ親しみ」なのです。つまり、政権交代という最も慣れ親しみのない事態が起きた今のうちに制度を一気に変えてしまうのです。それで問題ないという事実性が突きつけられれば、人々はその制度に馴染んでしまい
ます。馴染みさえすれば、特定のイメージに固執する必要はなかったと特に若い世代から学習していきます。こういう感情的に抵抗がある問題は民主制に開いて人々の民意を参照にするやり方はダメです。事実性を導入してあとは慣れさせる。これしかありません。

出演者プロフィール

渥美 由喜(あつみ・なおき)
東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長。1968年東京都生まれ。92年東京大学法学部卒業。富士通総研を経て、09年より現職。内閣府「少子化社会対策推進会議」委員。専門は人口問題、社会保障制度、労働雇用。著書に『少子化克服への最終処方箋―政府・企業・地域・個人の連携による解決策』など。
  
神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』、『ビデオジャーナリズム─カメラを持って世界に飛び出そう』、『ツバル−温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。
  
宮台 真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。博士論文は『権力の予期理論』。著書に『制服少女たちの選択』、『14歳からの社会学』、『日本の難点』など。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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