部落解放同盟福岡県連は7月22日、福岡市内で第60回定期大会を開き、県連所属の同盟員の立花町職員が、差別事件を「自作自演」して逮捕されたことについて、関係者に謝罪するとともに真相究明に取り組む方針を確認した(「読売新聞」2009年7月23日付)。
真相究明に取り組む。ぜひやっていただきたいことだが、この団体に身内で起こった非を検証したり、正したりするなんてまねができるのだろうか。
差別落書きがあった。差別ハガキが届いた。表面的な格差は少なくなったが、部落差別はまだまだ根深い。その証拠がこれらの落書きでありハガキだ。差別落書き・ハガキは、その内容に賛同する社会状況があるからこそなされたのであり、そういったことを考えれば、部落問題が解決されたなどとは、とうてい言えない。
今日もなお部落差別の実態を深刻視し、行政に施策を要求したりする人たちの主張のひとつがこれであろう。
福岡県八女郡立花町では部落解放同盟員で同町嘱託職員K氏の自宅や職場などに、2003年12月以来、44通の「差別ハガキ」が送りつけられていた。K氏は2002年に採用され、地域活動指導員として、同和教育などを担当していた(偽計業務妨害:町嘱託職員を起訴 地検八女支部/福岡 - 毎日新聞)。
「解放新聞」によると、送られてきたハガキの文面は以下のようなものだった。
公表した3通のハガキ
▽07年12月12日付け
① 町役場に送られてきたハガキは、「いつまで同和同和と言っているんですか。日常生活で苦しんでいる町民はたくさんいますよ。合併もできないようになりますよ
町長さん 町民一同」と書かれていた。
② Kさんに送られてきたハガキには「死」の文字が写し出されていた。文字は手の込んだ手法で周りを黒く塗ることで「死」の文字を浮かびあがらせている。ハガキ上部には「コレガサイゴノハガキ」と記されていた。
▽09年1月21日付け
③ Kさんに送りつけられたハガキも手の込んだ手法で「背中に注意!」と書かれていた。
(「解放新聞」2009年4月13日付 3通の脅迫ハガキを公表 立花町連続差別ハガキ事件で)
解放同盟はもとより、町、県、県議会も重大視する大事件となった。麻生福岡県知事も議会でこう答弁した。
同和地区出身であることを理由に辞職を迫り、平穏な生活を脅かす内容のハガキが、これまで44通、自宅や職場に送りつけられてきているもの」「とくに41通日の封書には、差別文書とともにカッターナイフの刃が同封されるなど、きわめて悪質な人権侵害事件。被害者の方のご心情を考えますと、1日も早く事件が解決されなければならないと考えております」との認識を示した。また、県として法務局や県関係機関などで構成する「福岡県立花町差別はがき事件対策会議」を設置し、情報交換し、町の啓発活動を支援するとりくみをすすめてきた」「引き続き、関係機関との密接な連携のもと、事件の解決に向け、積極的にとりくむ」ことも明らかにした。(「解放新聞」2009年3月30日付 県の姿勢を問う 宮浦県議が知事に)
ところが、福岡県警と八女署が合同で専従捜査班を設置して捜査したところ、これらの「差別ハガキ」は被害者だったK氏本人が自分で書き送っていたというのだ。県警は今年7月7日、K氏を偽計業務妨害の疑いで逮捕した。報道によると、K氏は警察の調べに対し、「被害者になれば町が嘱託の雇用契約を解除しにくくなると思った」「すべて自分が送った」と「犯行」を認めているとのことだ(「朝日新聞」2009年7月8日付)。
差別落書きだ、差別ハガキだと官民一体となって大騒ぎしたが、よくよく調べてみると、自作自演だったというのは、過去にもたびたびあった話だ(拙著『だれも書かなかった「部落」』講談社+α文庫参照)。運動を盛り上げたり、行政を追いつめるネタ作りを動機としたものだった。
たしかに自作自演が判明した事例は数例にしか過ぎない。だが、たとえば公衆トイレの落書きなど、だれがいつ書いたのか「犯人」を突き止めるなんて、よっぽどの証拠が残されていない限りできるものではない。いや、そもそも「差別落書き」で解放同盟は「犯人」探しなど考えていない。自作自演の「犯人」が明らかになったケースは、警察や行政が本気になって捜査・調査したケースである。
手軽に「差別」の深刻さを裏付け、行政を追及するネタがつくれて、しかも自作自演がばれる心配もかなり低いとなれば、実際の自作自演事例は、判明した件数の何倍、何十倍(いや何百倍か)あると考えてもおかしくない。
しかし自作自演例が一体どれだけあるかなんて、公になるなんてことはないだろう。だからせめて、解放同盟は県連大会で約束したとおり、今回の立花町の事件について、真相究明に取り組んで欲しいものだが、期待できるものではない。解放同盟は過去、幹部によりあるいは組織ぐるみで、いくつもの犯罪行為に及んできたが、自ら真相を究明したことがあったのだろうか。
2006年の大阪飛鳥会事件、奈良市の業務妨害事件職務強要・仮病事件、京都市職員による大量犯罪・不祥事。最近の事例をとっても、かれらは犯罪発覚当初こそ、殊勝なことを口にし、周囲の同情を集めようとしたが、結局何も究明などしていないではないか。2年前の12月、中央本部は有識者による「部落解放運動への提言」を受けたが、はや組織内部では完全に忘れ去られているではないか。
県連大会では「幹部たちから謝罪と再発防止への決意表明が相次いだ」という。
「組織の信頼を失墜させた。皆さま方にご心配とご迷惑をお掛けして誠に申し訳なく思います」。この男を支援してきた県連合会筑後地区協議会の中山末男委員長は、約500人の参加者を前に唇をかみしめ、頭を下げた。県連合会副委員長の組坂繁之・中央執行委員長も「情けなく腹立たしい。(事件を)見抜けず、反省しないといけない」と厳しい表情を見せ、吉岡正博書記長は「事件は県連合会にとって重いが、ピンチをチャンスに変える取り組みを」と組織の団結を訴え、再発防止を誓った。(「西日本新聞」2009年7月23日付)
だが、かれらは何を反省し、だれに謝罪しているのか。同盟員の前で謝罪してどうするんだ。今回の事件でまず謝罪しなければならないのは、赤っ恥をかかせてしまった外部の協力者、市民や行政、警察関係者(自作自演を行ったとされるK氏は刑事告訴もしていた)ではないのか。
福岡県連が今後いかに事件の「決着」を付けるか(忘却するか)、見続けていきたい。