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レセプトオンライン請求はなぜ必要なのか
厚労省が路線修正
2009.10.16
長妻昭厚生労働相が診療報酬明細書(レセプト)のオンライン請求義務化で緩和措置を打ち出した。「義務化されれば廃院せざるを得ない」。開業医を中心に医療現場から強まっていた声に配慮した格好だ。医療現場も歓迎ムードかと思いきや、一部の医療関連団体は「まだ生ぬるい」との意見を表明した。レセプトデータの電子化の是非をめぐる議論は古くて新しい問題。政権交代を機に、幅広い当事者が医療IT化のビジョンを描き、その中にオンライン請求をどう位置付けるのか合意形成を図る議論をする場を設けてはどうかと思う。
10日にパブリックコメントが始まった省令改正案によると、義務化免除の対象は、手書きレセプトで年間レセプト3600件以下、すべての常勤医が65歳以上などとなっている。年間3600件は、月間22日稼働として1日当たり約14件となり、果たして緩和措置と言えるのか分わからない。一方、高齢の医師が1人の診療所などでは、実効性があるのではないか。日本医師会が7月に公表した調査(速報)によると、「義務化で廃院を考えている」としたのは70〜80代の医師を中心に全体の8.6%、3611施設で、地域医療を維持する上でも影響が無視できない数に上っていた。
厚労省の方針転換に対し、現時点で不十分との姿勢を明確にしたのは全国保険医団体連合会と大阪府保険医協会。保険医協会は13日に、「義務化は即刻撤回すべき」との声明を発表した。オンライン請求の方針を主導した政府の規制改革会議が、IT化が最も遅れた分野の1つに医療を位置付けたことには、臨床では先進医療機器をはじめIT化は進んでいると反論。「レセプトが扱う情報はテキストデータなどが基本であり、真に求められるIT化とはまったく質が違う」と指摘している。
その上で、医療の効率化というのならなぜ請求方法を「オンラインに『限定』しなければならないのか」という問題提起をした。業務効率化のためにレセプトデータを電子化するなら、電子媒体などでも用は足りるのではと、もっともな疑問も投げかけた。保険医協会が“本丸”に挙げたのは、データの利活用を渇望すると見る財界の存在だ。
●古くて新しい問題
レセプトデータを電子化して請求するシステム構築の動きは、古くは「レインボーシステム」というレセプト電算処理システム構想が浮上した1982年までさかのぼる。IT技術の進歩に伴いその後も形を変えて促進政策が打ち出されたものの、四半世紀が経過した今でも医療現場の反対が根強い背景には、医療政策当局との相互不信が払拭し切れていない影響があるのではないか。
医療には無駄や非効率があるのではないかという厚労省などの見方と、レセプトデータを一手に握られると医師の裁量権が制限され、診療報酬改定時の交渉も不利になるという医療関係者の認識のギャップを解消しないかぎり、いつまでたっても出口は見えそうにない。
ただ、そうした状況が今回の政権交代で変わる可能性が出てきた。財界の意向がIT政策にも反映された小泉医療構造改革とは情勢が違う今こそ、レセプトの電子データを何のためにどう活用するのか議論する好機ではないか。オンライン請求への反対意見は、病院よりも診療所関係者の間で根強いが、議論ではより良い医療につながるのかという視点が欠かせない。医療関係者に、保険者、業界も加わり、それぞれの立場でメリット、デメリットを表明した上で方向を決めてはどうかと思う。
ところで長妻厚労相は私見として「最終的には100パーセント(の医療機関で)レセプトオンラインを実現したい」と述べたとメディファクスは伝えた。政権公約に「完全義務化から原則化に改め、医療現場の混乱や地域医療崩壊を防ぐ」と明記した民主党のキーパーソンが、あえてそう発言したのはなぜなのか。(田部井 健造)
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