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社説

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選択的別姓―法制化へと動くときだ

 婚姻届を出すには、姓を夫婦どちらかのものにそろえなければならない。いまの民法はそう定めている。

 姓を変える妻か夫は、もとの姓で積み重ねてきた仕事の実績や人間関係のリセットを迫られる。特に働く女性には抵抗感を抱く人が少なくあるまい。

 現実にほとんどの場合、妻が夫の姓に変える。それがいやで事実婚で通そうとすれば、相続などで不利益をこうむることにもなる。

 それ以上に、人格の象徴である名前を強制的に変えることは憲法の「個人の尊重」の原則からも問題だ。

 そこで希望する夫婦に限って結婚前の姓を選べるようにする。それが選択的夫婦別姓だ。民主党などはこのための民法改正案を提出してきた。鳩山政権発足後、千葉景子法相は来年の通常国会にも法案を出すと述べた。

 世界を見回せば、夫婦の姓の統一を強制している国は少ない。選択的別姓を含む女性差別撤廃条約を日本が批准して四半世紀がたつが、先進国でまだ採用していないのは日本ぐらいだ。

 江戸時代の農民や町民にはそもそも名字が許されなかった。夫婦同姓が制度化されたのは明治に作られた旧民法からで、1世紀余りのことだ。

 女性の社会進出が進み、夫婦や家族の在り方も多様化している。3年前の内閣府の世論調査では、結婚で姓が変わることを「不便」と感じると答えた人は46%と過去最高になった。

 選択的夫婦別姓への改正を法制審議会が答申したのは13年前。以来、導入を阻んできた反対論は次のようなものだ。夫婦が同じ姓を名乗るのは日本の伝統であり、文化だ。夫婦別姓では家庭のきずなが崩壊する。なにより子どもが混乱し、教育上よくない。

 朝日新聞が今週行った世論調査では賛成48%、反対41%とほぼ二分している。長く続いた制度を変える不安や抵抗感はあるだろう。一体感のある家庭が、子どもの成長にとってよい環境だという主張もうなずける。

 だが、家族のきずなは同じ姓だからといって保たれるわけではない。それは何より、愛情を基礎に日々築かれるものだ。同姓でも問題を抱える家庭はあるし、事実婚でも愛をはぐくみ、子どもをいつくしむ夫婦がいる。

 なにも別姓を強制しようというのではない。選択肢を増やそうというのだ。同姓であろうと別姓であろうと、夫婦は責任をもっていい家庭を築いていけばいいし、それは可能だ。「家」制度の名残からそろそろ決別したい。

 多様な生き方を受け入れることは、今の社会の閉塞(へいそく)感を打ち破るのにも役立つだろう。夫婦別姓を認めることは、その大きな一歩になる。

 政府は法案の提出をためらうことなく、国会は議論を先送りしないで決着をつけるべきときである。

羽田のハブ化―空の競争力を強めたい

 羽田空港を「国際ハブ(拠点)空港」にしたい。そんな考えを前原誠司国土交通相が打ちだした。国内線は羽田、国際線は成田という「内際分離」の原則を根本から切りかえるものだ。

 内際分離政策は、激しい反対運動を経て完成した成田空港への配慮からできた。だから、森田健作千葉県知事が国交相に真意をただすなど地元が動揺したのも無理からぬことだ。だが、国際競争力や経済効果を考えれば、羽田のハブ化はぜひ進めるべきである。

 成田は都心から遠く、騒音問題を抱えて深夜発着ができず、滑走路の増強も難しい。官民の航空関係者には「このままでは国際空港間の競争に立ち遅れる」との危機感がかねてあった。

 にもかかわらず長い自民党政権下で政策転換できなかったのは、過去の空港行政の失敗を認められなかったからだ。地元や業界とのしがらみもあったろう。政権交代がそれらを断つことを可能にしたといえる。

 羽田は都心に近く、国内線も集中している。乗り継ぎが便利だから海外との往来にも利用しやすい。来年10月に4本目の滑走路ができれば年間発着回数は30万回から41万回に飛躍的に増え、24時間国際空港化が可能となる。上海、ソウル、香港に限られている国際線も欧米便を設ける余地が広がる。

 アジアの主要空港はハブ空港をめざしてしのぎを削っている。成田は貨物取扱量で香港や韓国・仁川に及ばず、国内の地方空港からの旅客さえ奪われるありさまだ。シンガポールや上海などとの競合も激しい。

 羽田をハブ空港化することで、成田の利用価値が著しく下がるわけではない。国際線は今後も高い成長が見込まれる。首都圏の将来の航空需要は羽田と成田を合わせてもまかなえなくなるほど膨らむと見られる。羽田と成田の一体運用で効率的な内外路線網を整えるべきときだ。

 空港と航空会社が強くなることが旅行者やビジネス客の往来、物流をより活発にする力となる。米欧ではその観点から「オープンスカイ」と呼ばれる航空自由化が進んでいる。日本も流れに乗り遅れてはならない。拠点空港を強化し自由化にかじを切るべきだ。日本経済の活性化にも大いに役立つ。

 橋下徹大阪府知事からも国交相に重要な提案があった。大阪(伊丹)空港を廃止し、「関西空港を西日本のハブに」との内容だ。関西には関空、伊丹、神戸の3空港が集中する。共倒れさせないためにも、活発な議論が望まれる。

 今後の空港行政には、拠点空港の競争力強化と地方空港の整理や廃止という「選択と集中」が求められる。

 日本航空が経営危機に陥り、50路線の撤退を検討している。その教訓も空港行政の転換を促している。

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