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特集:新政権、記者会見検証(その1) 「政治主導」巡り混乱

 鳩山新政権の発足で、各省庁の定例会見の風景が変わりつつある。これまで続いてきた事務次官会見が一斉に廃止され、大臣の方針でフリーの記者や外国特派員にも開放された省庁もある。会見廃止については記者クラブが反発、抗議するなど混乱が続く。「官僚に任せず、すべて政治家が責任を持つ」という新政権の大号令から起きた混乱だが、官僚側が過度に萎縮(いしゅく)し、簡単な問い合わせや取材にも応じないケースも出始めた。この1カ月の「霞が関」を検証する。

 ◆大臣会見「オープン化」

 ◇参加資格、省側が判断

 ●ネット記者出席

 「取材の機会を与えてくださったことに敬意を表します」「大臣の決定には本当に感謝しています」--。9月29日夕、東京・霞が関の外務省で開かれた岡田克也外相の記者会見。フリーライターや外国特派員らは、岡田外相への感謝を示す言葉で、質問を始めた。外務省はこの日、「霞クラブ(外務省記者クラブ)」に加盟しない18人の出席を認めた。

 「会見の開放」を進める新政権にとって初会見で、動画・映像サイト「ニコニコ動画」などのネット媒体も出席。それを取材する民放番組のスタッフもいて、会見場は混雑した。

 岡田外相は「一番オープン化が進んでいるのは外務省。他の役所にも伝わっていけばよいと思う」と胸を張り、「次回以降、お客さん(記者)が少なくならないようにしたい」と付け加えた。

 会見へ出席する「資格」は同省が設けた。新聞協会や日本民間放送連盟、雑誌協会のほか、ネット媒体でつくる業界団体「日本インターネット報道協会」に所属している記者か、これらの媒体に定期的(過去6カ月以内に2本以上の署名記事)に執筆しているフリーライターだ。記者クラブ側は協議を求めているが、今後も参加の判断は会見を主催する同省が行うという。

 ただ、資格認定を巡っては閣内でちぐはぐな問題も生じている。鳩山由紀夫首相が9月16日に官邸で行った就任記者会見は内閣記者会主催で、日本専門新聞協会の所属記者は出席できたが、今回の外務省は除外された。「協会ごとではなく、個々のメディアごとの申請はどうか」との質問に、岡田外相は「事実上、全くのフリーになってしまう。今の段階ではセキュリティーの問題などを考えるとできない」と否定的な考えを示した。

 ●異例の2度会見

 一方、亀井静香金融・郵政担当相は10月6日午前、異例の2度会見を開いた。金融庁記者クラブの正式会見の後に、週刊誌やネット媒体、米紙記者、フリーライターら12人を大臣室に招き入れた。「私は泥棒にだってオープンですよ」。出席した記者にはコーヒーをふるまったという。

 同記者クラブはこれまでも、非加盟社からの出席の要望があれば外務省と同様、幹事社判断で認めている。しかし、亀井金融相は就任後、会見参加に条件を付けないよう要請。クラブ側は新聞協会の見解(右ページ参照)を踏まえて回答したが、2度会見となった。35分間の会見時間は、約60人が出席した記者クラブ主催の会見より4分間長かった。

 会見は冒頭から、亀井氏が意欲を示す中小企業向け融資や住宅ローンの返済を3年程度猶予する「モラトリアム」をめぐって厳しい応酬があった。だが、大臣と週刊誌記者とのやり取りに割り込む形で、同席した大塚耕平副金融担当相が「大勢の人に質問していただきたい」と話した。出席者は「あのやり取りはもっと聞きたかった」と残念がる。

 ●役所主導の懸念

 記者クラブ側は、戦後、情報公開に積極的といえなかった各省庁の大臣や官僚たちに定期的に会見を求めてきたという歴史を重視する。省庁側に専ら会見の主催権があるとすれば、厳しい指摘をしそうな記者に質問をさせなかったり、時間を制限することにつながるおそれもある。

 05年には紀宮さまと黒田慶樹さんの結婚式取材で、宮内庁はNHKが取り決めに違反して上空のヘリコプターから生中継したとして抗議。お二人の記者会見でのNHKの取材を拒否したケースがある。このとき、宮内庁側は「会見は記者クラブとの共催」として出席拒否を主張した。

 記者会見の開放について、服部孝章・立教大教授(メディア法)は「記者クラブ主催だと非加盟記者の出席が容易ではないし、役所主催だと出席資格の認定や会見運営で恣意的(しいてき)な運用の恐れがある。一長一短だ」と指摘。「重要なのは、公的な情報にアクセスできるパイプがより太くなることで、現在のような役所主導ではなく、新聞協会や民放連、雑誌協会など関係団体で会見の在り方を議論すべきではないか」と話す。

 一方、日本雑誌協会人権・言論特別委員会の渡瀬昌彦委員長(講談社広報室長)らは9月下旬に、松野頼久官房副長官を訪ね、フリーライターを含めだれでも会見に参加できるよう要請したことを明かす。渡瀬委員長は「亀井金融相の会見方式の方がより開放されていると思うが、どのような形が望ましいのか協会として早急に検討したい」と話した。

 ◇報道も変わらなければ--政治部副部長・平田崇浩

 鳩山由紀夫首相や閣僚、さらには副大臣・政務官が発したメッセージが日々のニュースとなって駆け巡る。次々と打ち出される新たな政策や方針は、自民党と官僚組織が長年にわたって築き上げた秩序を破壊し、その是非の判断を我々メディアに問いかけてくる。

 例えば「八ッ場(やんば)ダム」。計画から57年、地元住民に苦渋の決断を強いてきた国が一転、建設中止を宣言した事態をどう報じればいいのか。最大の被害者は住民だ。ダム計画に翻弄(ほんろう)された人生は戻らない。これまでなら国の対応を批判することが記事の主眼となっただろう。しかし、政権交代によって多くの国民が気付いたはずだ。選挙で自分たちが選んだ「政府=国」を批判するだけでは済まない、と。

 ダム計画は変更を重ねながらも巨額の関連事業費が支出されてきた。それを認めた過去の与党政治家を選んだのは国民であり、中止となった場合にその費用を負担するのも国民だ。計画を主導した官僚組織が自ら過ちを認めることはない。

 今後も政策の見直しが相次ぎ、同じような悲劇や混乱と向き合わなければならないだろう。民主党政権はその責任を負うと言っている。メディアもともに責任を負う意識改革が必要ではないか。

 それは政権に協力するという意味ではない。新しい政策の本質を理解し、その是非を考える材料を読者に提供するのが我々の責務だ。

 従来の「官僚主導」は我々にとっても楽だった。既定路線を外れないから流れが読める。「政・官・業」のトライアングルの内側を取材するだけで、ある程度の記事は書けた。省庁ごとに設けられた記者クラブはそれを前提とした便利な取材ツールとなっていた面も否めない。今回、民主党はメディアに対しても「脱・官僚依存」を求めてきたのだ。

 「この約束が守られなければ、結果として人間の存在自体が脅かされ、もっと多くのコストがかかる。そうならないために我々は今から準備する」

 温室効果ガス排出量を20年までに90年比25%削減する中期目標を表明した訪米の最後、記者会見した鳩山首相の言葉だ。25%削減には経済界を中心に異論も根強い。それを承知で、世界へ向けて理念を説く日本のトップの姿は新鮮だった。

 官僚の描くシナリオを超え、記者ひとりひとりが国のあり方や政策の方向性を考える。その努力なしに民主党政権の政治主導を検証するのは困難だろう。

 政治は変わった。報道も変わらなければならない。

 ◆米国

 ◇オバマ大統領、質問者限定に批判も インタビュー増やし発信

 オバマ米大統領は、各種政策への世論の支持を取り付ける上で、人々に直接メッセージを伝えることを重視している。そのため頻繁に全米各地に赴き、市民との対話集会を続ける。

 こうした世論形成の手法はメディア対応にも表れている。米タウソン大のマーサ・クマー教授が調査した歴代政権のメディア戦略によると、就任7カ月間(8月末時点)でオバマ大統領はメディアとのインタビューを114回も行った。同期間にブッシュ前大統領は37回、クリントン元大統領は41回。

 オバマ大統領の場合、テレビのインタビューは66回に上り、テレビ重視が顕著だ。さらにヒスパニック(中南米)系、黒人系などのマイナーなメディアも優遇。訴える政策や理念によって、特定の視聴者・読者層をターゲットにする。

 ただし、メディアコントロールの側面も強い。大統領は就任後、ホワイトハウスで夜の高視聴率時間帯(プライムタイム)に全米にテレビ中継された記者会見を4回行った。

 どの会見も事前にホワイトハウスが質問できる記者を決める。出席記者が挙手しても無視される。オバマ大統領は国民が関心を持ち、伝えたいテーマを選別し、テレビに向かって語る。

 公約の「開かれたホワイトハウス」とは裏腹に、大統領がメッセージを直接国民に伝えるため、ホワイトハウスが記者会見をおぜん立てし、厳しい質問の応酬がないことに、批判も高まっている。【ワシントン小松健一】

 ◆英国

 ◇ロビー制度「なれ合い」化 約180人に限定、外国人に門戸開かず

 英国には、中央官庁などの取材に関して「ロビー制度」があり、ジャーナリストの英政府や議会へのアクセスは十分に開かれたものになっていない。

 この制度は、英大手メディアを中心にした登録記者だけに首相官邸の日々のブリーフィング出席や自由な議会取材を認めるものだ。ロビー記者証を持つのは現在、約180人。一部の英地方紙や政治専門ウェブサイトの記者は含まれるが、歴史的につながりが深いアイルランドと国際通信社を除けば、外国人記者には門戸が完全に閉ざされている。

 ロビー制度はメディアと議会・政府との間で歴史的に成立してきたもので、加盟記者で作る自主組織が新規加盟を認めるかどうかを判断している。

 下院では今夏、議員の間で経費の不正請求が常態化していたスキャンダルが発覚した。ロビー記者なら「誰でも知っていた」経費請求の実態が問題化したことで、ロビー制度は記者と議員の「なれ合い」を生んでいるとの批判を浴びている。

 一方、英首相の月例記者会見はより外国メディアにも開かれている。この会見には外国人枠が約30席あり、希望者が多い場合は基本的に「抽選」で出席者を選んでいる。その他の中央官庁では個別に「非公式」の記者リストを作り、プレス情報を提供している。

 現状について、ロンドン外国特派員協会のクリストフ・ワイルド氏は「英政府は外国人記者を正当に扱っていない」と批判する。【ロンドン笠原敏彦】

毎日新聞 2009年10月15日 東京朝刊

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