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牛乳百科事典トップ > 「米飯と牛乳」のGI(グリセミック・インデックス) −牛乳・乳製品による食後血糖上昇の抑制効果−
Issued 2002/12/01

「米飯と牛乳」のGI(グリセミック・インデックス)
−牛乳・乳製品による食後血糖上昇の抑制効果−

MILK通信II ほわいと(2002年冬号より)

「低インスリンダイエット」という言葉をよく耳にします。
インスリンの分泌を抑える食物を摂ることで血糖値の上昇を抑え、体内に取り込まれる糖の量を減らすダイエット法です。その指標になるのがGIですが、ここでは、糖尿病などの「栄養ケアとマネジメント」に、米飯を基準食としたGIを用いることの有効性、また、食事に牛乳・乳製品を取り入れることでGIを低減させる効果を検証していきます。

(独)国立健康・栄養研究所臨床栄養管理研究室長
杉山みち子
 いま、栄養教育の考え方が大きく変わってきています。2002年から管理栄養士の養成カリキュラムに「栄養ケアとマネジメント」が取り入れられました。
 これまでは集団を対象に食事調査を行い、そこから個人の栄養状態を、例えば「鉄分不足」といったように成分表に照らし合わせて評価してきました。それに対して、栄養状態を人間の側から評価する、つまり個々人に対して、最適な栄養ケアを行い、機能や方法、手順を効率的に実行するためのシステムが「栄養ケアとマネジメント」です。
 そのためには人間の栄養に影響を与える要素や状態、血液データ、身体組成などをきちんと評価したうえで改善計画を立て、栄養ケアを実施しなければなりません。
 例えば、糖尿病の栄養目標の国際的なガイドラインは「血糖値を正常範囲で維持する」ことと「適正体重を維持させていく」ことです。体重が適正、あるいはやせ気味程度に保たれている人にはエネルギー制限をかけることは不要で、血糖値を維持することを優先して栄養ケア計画を立てるべきです。個人差を無視して一律にエネルギー制限をすることはかえって好ましくないのです。
 大切なのは、個々の患者と健康管理の専門家が本人の体質や疾病を考えて話し合い、長期的に達成可能な体重、ヘモグロビン、血糖値などを決めていくことなのです。
*ヘモグロビンA1C/成人血中のヘモグロビンの約4〜6 %を占める微小成分。過去1〜3ヶ月間の血糖コントロールの状態を判定する目安になる。

GIとインスリンの関連と基準食に米飯を選んだ理由

 わが国の糖尿病の栄養教育においては、長い間、食物に含まれる糖質つまり炭水化物の量の指導が行われてきました。しかし、同じ糖質の食品でも調理や加工、また食品の組み合わせによって、血糖の上昇下降の様子は変わってきます。こうした糖の質に着目し、食後血糖値がどう変化するかの一つの指標がGIです。炭水化物食品の食後血糖上昇能は、一定量の糖質摂取後の血糖上昇曲線下面積(IAUC)で示します。GIは、基準食摂取後2時間のIAUCを100とした場合の、検査食摂取後2時間のIAUC の比率(%)で表示します。  GIの活用が推奨される理由の一つは、この値の変化がインスリンの食後上昇を示す曲線とほぼ平行しており、測定が複雑なインスリン分泌の様子を、測定が簡単な血糖値である程度予測し、検討できる可能性があることです。GIを活用すれば、糖尿病のマネジメントに役立てられると考えられるのです。

児童の出席率を高め遅刻率を下げる効果も確認

 さて、GIの基準食となるのは、一定量の炭水化物を含んでいるもの(食物繊維は含まない)で、何を基準食にするかは、国によって異なります。私たちは日本型食生活を考えて、ご飯を基準にしました。
 もう一つ、ご飯を基準食にしたのには理由があります。私はかねてから、要介護状態の人たちにとって最大の栄養問題は、たんぱく質、エネルギーの低栄養状態だということを痛感してきました。高齢者にとって、ご飯は重要なエネルギーとたんぱく質の供給源ですから、血糖をコントロールする必要性からご飯の摂取を厳しく制限すると、ほとんど栄養素が摂れなくなってしまいます。ご飯を制限しないで血糖をコントロールし、なおかつ十分なたんぱく質やビタミン、ミネラルを確保できるようにするにはどうしたらよいか。そのためにも、ご飯を基準食としたGIが必要だったのです。
 基準食というのはGIが一定していないと困るので、測定では成分が一定した市販のうるち米を用いました。また、ご飯と国際表の基準食になっているグルコースとの相関、白パンとグルコースの相関なども検討し、ご飯が基準食として有効であることも確認しました。米飯のGIを100としますと、グルコースは122、白パンは92。この値をもとに国際表のGIとの換算が可能です。

牛乳・乳製品がGI低減に効果的という結果が

 牛乳・乳製品は更年期の適正体重の維持、生活習慣病や骨粗しょう症予防、筋力増大、生活リズムの調整と睡眠不足の解消などにも期待できる食品です。国際表の牛乳・乳製品のGIをみると、牛乳27、スキムミルク32、ヨーグルト27。多くの臨床研究が低GI食は72以下としていることを考えると、非常に低い値です。また、GIに1食当たりの糖質の摂取量をかけたGL(グリセミック・ロード)という評価指標も非常に低い結果が出ています。
 2000年度に、米飯を基準として、牛乳・乳製品を組み合わせた場合のGIの検討を行いました。
 牛乳と米飯を摂取した場合の血糖曲線をみますと、牛乳を米飯を摂る前に飲んだ場合、食べながら飲んだ場合、摂ってから飲んだ場合では、曲線の形こそ違ってきますが、GIそのものは67、69、68と大差なく、米飯だけよりも低下しています。低脂肪乳では84、ヨーグルト70台という結果でした。
 さらに各食品との食べ合わせでは、GIのカレーライスにチーズを入れると67に、GI92のパンにチーズをはさむと71、GI99のコーンフレークを牛乳に浸して食べると68となりました。また、GI111のせんべいや105の今川焼きに比べ、アイスクリーム64、チーズケーキ34、カスタードクリーム52、プリン54など、牛乳・乳製品を用いたお菓子は、非常に低い値です。
 GIにその食品をどれだけ摂ったのかという量の概念を重ねたGLの考え方を使って、食事の中身の検討もしました。例えば、ご飯、アジの塩焼き、味噌汁、リンゴのメニューは、GIでみると87。ここにヨーグルトを加えてみると、総炭水化物の比率の高いご飯のGIが低減されるために、食事全体でのGIは67という低GI食になりました。
 2001年度には、これまでの研究結果を踏まえ、糖尿病の境界域の人に対し、GIの教育を取り入れました。3ヵ月間、ビデオ学習テープを見せ、測り方を教え、カウンセリング等を繰り返し、牛乳・乳製品を使ったスープなどの献立講座を開きました。
 この結果、GI教育群では、ヘモグロビンA1cは8名中5名が下がり、平均3.1 %下がりました。これに対し、従来の糖尿病交換表を用いたグループでは、平均3.7%上がり、下がった人は8名中1名のみでした。
 またGI教育群では牛乳・乳製品の摂取量は28.2%増えました。以上の検証から、GIを栄養教育の手法として取り入れていくことは、有益ではないかと考えています。
 いま、私たちは新しく「ご飯食とグリセミック・インデックス表」を製作中です。そのなかでは、GIの観点から、牛乳・乳製品のいろいろな摂り方も検討しています。
 今後、GIを取り入れた栄養ケアとマネジメントは、さらに生活習慣病や高齢者の介護状態の予防、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上に有効性を発揮していくと思っています。

杉山みち子(すぎやま・みちこ)
(独)国立健康・栄養研究所臨床栄養管理研究室長
日本女子大学家政学部卒業。東京大学より医学部博士の学位取得。日本Glycemic Index 研究会(代表:田中照ニ)の発起人。
著書に『更年期の保健学』(第一出版)、『生活習慣病と高齢者ケアのための栄養指導マニュアル』(第一出版)など多数。

MILK通信II ほわいと(2002年冬号より)