サイエンス

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

特集ワイド:新型インフル 素朴な疑問

 新型インフルエンザの感染が拡大し、4日までの1週間の患者数は33万人(厚生労働省)と最多を記録した。19日からは順次ワクチン接種が始まるが、さまざまな情報が飛び交い、解消しきれない疑問も多い。ワクチンからマイタケまで、専門家に素朴な疑問をぶつけてみた。【山寺香】

 【Q1】新型インフルエンザワクチンを接種すれば安心?

 【厚生労働省結核感染症課】

 季節性ワクチンと同様に発症や重症化を防ぐ効果が期待される。しかしまだ、新型ワクチンの効果を示す明確なデータは無い。接種しても感染の恐れはあるが、重症化する割合が下がり、同時期に重症患者が大量に発生しにくくなれば、医療機関の負担軽減にもつながる。

 【けいゆう病院、菅谷憲夫・小児科部長】

 新型ワクチンを打てば感染を完全に予防できるというのは誤解。ワクチンは既に持っている抗体を強化する。多くの人が抗体を持たないとされる新型では新たに抗体を作り出さなければならない。

 新型インフルエンザは、発熱から48時間以内にタミフルかリレンザを投与することで重症化をほとんど食い止めている。国が定めた優先順位に外れたからといって過度に残念がる必要はない。ただし新型は例年の季節性とは異なり重症肺炎を引き起こすため、若く健康な人でも死亡する恐れがある。今年は必ず早期に医療機関を受診しタミフルやリレンザを服用すべきだ。

 【Q2】政府はワクチン接種の優先順位を定めている。接種の時期は行政が通知などで知らせてくれるの?

 【厚労省新型インフルエンザ対策推進本部事務局】

 個別に通知はしない。ワクチンは副作用などの危険性もあり、それを理解した上で希望する人にだけ実施するからだ。各カテゴリーの人が接種できる時期の目安は示してあるが(表)、自治体によって大きな差が出るとみられ、詳しい時期は都道府県ごとに広報を行うことになっている。接種できるのは国と委託契約を結んだ病院で、市町村のホームページなどで病院名を公表する。

 【Q3】ワクチンを接種するには、何か証明書の提出が必要なの?

 【同事務局】

 国が優先接種対象者であることを示す証明書を発行することはないが、年齢や疾患名を証明するものは必要だ。小学生ならば保険証や母子健康手帳、住民票など。妊婦は母子健康手帳など。基礎疾患があり、かかりつけの病院でワクチンが接種できない場合は、かかりつけ医が優先接種対象者証明書を発行する。

 【Q4】子どもの感染が目立っています。大人は感染しにくいの?

 【菅谷氏】

 スペイン風邪(1918年発生)を経験した90代以上の人が新型に対する抗体を持っているのは間違いないが、東大医科学研究所などの研究ではそれ以下の人は抗体を持っていないとしている。高齢者の集団感染が起きていないはっきりした理由は分からない。高齢者は若い人に比べ外出が少ないのでかかりにくいのだろう。もし高齢者間で感染が拡大すれば、多数の死者が出る可能性もある。

 【外岡立人・元小樽市保健所長】

 一番患者が多いのは20代以下で、特に15歳以下が多い。30代以上になるとかなり少ない。30~50代がなぜ感染しにくいのかは証明されていない。当初は2回接種しないと効果が無いとされていた新型ワクチンが、予想に反し1回ですぐに免疫ができることが分かった。新型インフルエンザは未知のウイルスとされるが、前身となるウイルスに既に人が感染したことがある可能性もあるのではないか。

 【Q5】「新型ワクチン」「季節性ワクチン」「肺炎球菌ワクチン」と、報道では複数のワクチンが登場する。どれを接種したらいいの?

 【菅谷氏】

 新型インフルエンザと季節性インフルエンザの違いの一つは肺炎の起こし方だ。新型ではウイルスが直接肺に入りウイルス性肺炎を引き起こす。季節性ではウイルス性肺炎はごく少数で、弱った気管や肺に細菌が感染して死に至るケースが多い。

 季節性に感染しやすい高齢者や基礎疾患を持つ人は、季節性ワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種した方がよい。季節性ワクチンは新型には効かないとされるが、新型によるウイルス性肺炎で死亡した人のうちの約3割は細菌感染を合併していたという米の報告もあり、肺炎球菌ワクチンを接種することで新型にも効果がある。新型ワクチンも機会があれば打った方がよい。1週間ずつ間隔をあければ三つとも接種することは可能だ。

 【Q6】感染していなくてもタミフルやリレンザの予防投与はできる?

 【厚労省結核感染症課】

 予防投与は妊婦や高齢者、基礎疾患がある人などで患者と濃厚に接触するなど、感染が強く疑われる場合には医師の判断でできる。しかし、それ以外は推奨しない。

 【菅谷氏】

 できれば控えてもらいたい。通常、治療では1日2回、5日間投与する。それに対し予防では1日1回(治療の半量)、1週間~10日間投与する。予防投与中に感染しても症状が表れにくく、知らない間に重症化することがある。また、少量を長期間投与するため耐性も出やすく、治療のために投与した時に薬が効きにくくなることもある。

 【Q7】マイタケがインフルエンザ予防に効果があるとの実験結果(落合宏・富山大名誉教授らの研究。08年に米科学雑誌に掲載)が一部で報道された。効果はあるの?

 【キノコの抗がん研究を30年以上続けた池川哲郎・元金沢大教授(元国立がんセンター研究所研究員)】

 多くのキノコには免疫を高める作用がある。マイタケがウイルスに直接作用し感染後の治療に効果をあげることは難しいと思うが、免疫が高まればインフルエンザにかかりにくくなる可能性はある。私たちがかつて行った実験では、免疫を高める効果はマイタケよりもむしろブナシメジ、エノキダケ、ナメコの方が高いという結果だった。

 【Q8】密着性が高い産業用の「N95マスク」の方が、普通のマスクよりも効果があるの?

 【厚労省結核感染症課】

 N95マスクは気密性が高く適切につければ効果がある。しかし、顔の形に合っていないとすき間ができてしまったり、きちんと着けても息苦しく日常生活には適さない。また、ガーゼのマスクは目が粗いためくしゃみなどを通してしまう。繊維を化学的に結合させた不織布製のマスクの使用が望ましい。

==============

 「特集ワイド」へご意見、ご感想を

t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2009年10月14日 東京夕刊

PR情報

サイエンス アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド