さて、先週ロンドンから戻ってきました。防衛装備見本市DSEiの取材でした。 現地では国内メーカーの方々ともお話しできたり、現地のシンクタンクの人間とも会ったりして何かと実りの多い取材でした。 別に怪しげな日本料理を食べだけにロンドンに行ってきたわけではありません。 ロンドンに立つ前、以前防衛省の来年度概算要求で開示された新戦車の調達について書きました。 現在開発中の新戦車(TK−X)を4年分の58輛を561億円で一括調達する。ついては、単年度で収得するよりも83億円調達費が削減できる、といものです。 単年度ならば1輛あたりの調達コストが11億1千35万円となるところを、9億6千二〇〇万円ほどに下げたことになります。 防衛省22年度 概算要求 陸幕新戦車大量発注の思惑はhttp://kiyotani.at.webry.info/200908/article_6.html さて、実はここに計上されていない、防衛省のHPや報道用資料にも何の記述もない費用があります。 これは新戦車に限った話ではないのですが、来年度から新たに調達される装備に関して防衛省は初年度にラインを引いたり、前払いするライセンス料などを装備の調達価格とは別に前払いすることになりした。 新戦車の561億円以外に、数億円だか数百億円だかの費用がメーカーに対して支払われることになります。これまではこのような費用は個々の装備に頭割りで乗せられていました。 即ち、来年度から調達のシステムが大きく変わることになります。 この初期費用を加えるならば、新戦車の調達単価は更に高くなります。それが1輛当たり百万円なのか1億円なのかは現時点ではわかりません。防衛省が概算要求で明示していないからです。 防衛省はそのような初期費用の数字も、調達システムが変わることもホームページでも記者クラブで配った資料にも掲載していません。 これは納税者を謀る悪質な隠蔽と決めつけられても仕方ないでしょう。 ぼくはこのようなシステムが近く導入される話は以前からメーカーや商社の方々から聞いて知っていました。 ところが来年度概算要求関連の資料には、その数字も説明もないので、導入は来年度からは間に合わず、再来年度からになるのかと思っていました。 それがこっそりと紛れ込まされていたわけです。 では何故このような「前払」いシステムが導入されたのか。 それは防衛省が自らの信用を毀損したからです。攻撃ヘリアパッチのライセンス生産による調達では62機導入のはずが、10機で調達中止。主契約社だった富士重工は数千億円の売り上げを失っただけではなく数百億円の損害を出しました。 これは同社の協力企業は勿論、アパッチの製造元であるボーイングにも大打撃だってしょう。 しかも防衛省・陸幕は「自分たちに問題はない。62機も調達するなんて約束した事実はない。訴える?やれるならやってみろよ」という態度でした。 その上たった10機の中途半端なアパッチをどう運用するのか、AH−1Sの後継をどするのか、という説明を納税者にしていません。 現在の硬直した調達システムでは同様のトラブルでて調達に支障が起こる可能性があります。ですが防衛省も陸幕も責任を取るのが嫌なので、ほっかむりをしたわけです。 メーカーや商社にしてみれば防衛産業の最大のメリットは儲けが少なくても確実に回収できることでした。その今やその「最大のメリット」が消えた訳です。 これは国内メーカーや商社だけではなく、ボーイングを含めた世界のサプライヤーに防衛省との取引は極めてリスキーであると宣伝したことに等しいわけです。 防衛省は国内外に向けて自分他hしの役所は信用できませんと公言したようなものです。 もし今後アパッチと同じような調達の中途打ち切りがあればメーカーの経営者達は株主から訴訟を起こされるでしょう。メーカーは恐くて商売はできません。 ですからこのような「前払い」システムが導入されたわけです。例えていうなら防衛省はブラックリストに載ってクレジットカードが使えなくなったようなものです。 技本の主導する研究開発では赤字がでることも多く、その赤字はメーカーが被り、装備他調達されるときにその費用を上乗せしてきました。 ですから技本の研究開発の予算が大幅に超過するということが表面上は無かったわけです。 今後そのような「貸し借り」も難しくなるでしょう。 またそのような「利益が低く、リスキー」な商売からは手を引けと株主達から要求される企業も出てくるでしょう。 更にいえば「前払い」はただでさえ硬直化している装備調達を、さら硬直化させることになります。 例えば装備調達費が8000億円として、その内各種装備の「前払い費用」が500億円とか、1000億円になればその分既存の装備の調達が圧迫されます。例えば毎年10輛程度調達していた装甲車が5輛に減らされる。 となると、調達単価が上昇します。これは現在進められている「まとめ買い」による調達コスト圧縮に逆行することになります。 また調達が「前払い費用」が発生しない輸入品に流れる傾向が強くなることも予想されます。 つまり防衛省の失策(というか無策)を糊塗するために、益々状況を悪くしているように思えます。 恐らく防衛省は「概算総額で『嘘』はついていない」と強弁するでしょうが、そのような「官僚の詐術」ともとられる論理を民主党政権が許すでしょうか。 ぼくは次官の首がとぶような大問題だと思うのですが、防衛省にはそのような意識はなかなったのでしょう。 新戦車の調達プログラムの総額は90式とほぼ同じ300輛ほどとすると、サブシステムを含めた開発費が約600億円、一輛が11億円として300輛で3300億円、都合3900億円ほどと予想されます。 しかもこのほかに既存戦車の改修もやる、そのように防衛省は言っております。 このような巨額の費用をかけて中途半端で冗長性もなく将来の近代化も難しい3.5世代戦車を調達する意義はない、とぼくは考えます。ほかに必要不可欠な装備がいくらでもあります。 新戦車開発で得た技術を既存戦車の近代化や機動戦闘車の開発に流用すれば開発費が無駄金にはなりません。 少なくとも民主党政権は来年度の調達を凍結し、防衛のあり方自体と調達戦略を見直すべきです。その上で機動戦闘車の導入と戦車の定数を再考し、新戦車を導入するか否かを決定すべきです。 また新DDHに関してもぼくは予算を凍結すべきと考えています。これはまた別な機会に述べます。 TK−X 公開http://kiyotani.at.webry.info/200802/article_10.html 新戦車の値段は本当に7億円か。 http://kiyotani.at.webry.info/200808/article_13.html |
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タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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内 容 | ニックネーム/日時 |
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国会人事において鈴木宗男の外務委員長とすることに民主党と社民党が同意し、 |
へろ 2009/09/20 19:48 |
>83億円調達費が削減 |
K 2009/09/20 21:31 |
平成21年度ライフサイクルコスト管理年次報告書に量産段階・初度66億円とあります。これのことでは? |
K 2009/09/20 21:43 |
防衛省装備施設本部 |
K 2009/09/20 21:57 |
「中途半端で冗長性もなく将来の近代化も難しい」と断言する根拠はあるのかね?w |
パンタ 2009/09/21 01:08 |
軍事のことはよくわからんが専守防衛に振り回されミサイル防衛だの何だので金の掛かる割には相手に脅威を与えないものばっかり。戦車にしても防衛産業の技術力向上と育成になっても敵の上陸部隊がこない限り出番はないのでは。 |
専守防衛廃止汁 2009/09/21 07:36 |
>>初年度にラインを引いたり、前払いするライ センス料などを装備の調達価格とは別に前払 いすることになりした。 |
通りすがり 2009/09/21 08:28 |
自衛隊の調達関係者なら、誰でも知っているのでは? |
K 2009/09/21 09:24 |
>平成21年度ライフサイクルコスト |
キヨタニ 2009/09/21 10:56 |
> |
ANTO 2009/09/21 13:44 |
はい。「中途半端で冗長性もなく将来の近代化も難しい」つうのはいつものガセでしたね(笑) |
パンタ 2009/09/23 11:32 |
「まとめ買い」に関しては現在の複数年度にまたがる調達と、プログラム全体で総額を出して、契約する方法あるいはその混合があります。両方とも必要なのですが、プログラムごとの総費用を出して、本当にこのプログラムが必要なのかどうかをまずは検討すべきです。それでやっと他国並ですけど。それが出来ないとオフセットも出来ません。 |
キヨタニ 2009/09/23 12:53 |
で、結局根拠のない嘘・デタラメだったと |
あほくさ 2009/09/23 19:12 |
キヨタニさんの疑問は当然だ。 |
通りすがり2 2009/09/23 23:02 |
疑問とされている「初期費用が58領分の導入価格に含まれていると、初年度と以降調達では調達単価の持つ意味がことなってくる」という根拠をもう少し詳しく説明いただけないでしょうか? |
Null_Devices 2009/09/25 00:26 |
防衛省の資料も見ていないんですか? |
禿鷲 2009/09/25 10:12 |
初度費用が58輛、561億円とは別というのは産業関係者、防衛省関係者その他のニューソースから確認しています。いずれも高位の方々です。 |
キヨタニ 2009/09/25 11:10 |
えっと、キヨタニさん、ライフサイクル文書の存在も知らなかったのですか?去年以前からありますよ?TK-XとC-Xは今年が初めてですが。 |
568 2009/09/27 00:43 |
戦車ってバックミラーは付いているんですか。後退するとき後ろが見えているようで上手いです。仮に付いているとしても泥などで役に立たないような気が。 |
つまらん質問ですが 2009/09/27 07:10 |
防衛省が公開している概算要求の資料を詳しく読んでみると面白い記述がありますよ。 |
キヨタニ 2009/09/27 11:50 |
↑ページ番号くらい挙げたらどうなんだ? |
あほくさ 2009/09/28 20:48 |
エーと、人が指摘した点を黙って削除するってのは、仮にもジャーナリストの出している文章としてどうなんでしょうねぇ。 |
Null_Devices 2009/09/29 02:13 |
貴重なご指摘ありがとうございました。 |
キヨタニ 2009/09/29 10:54 |
まあ、色々と細かく作りすぎて全然改良が出来なかった74式戦車を無理矢理改修して「安物買いの銭失い」になるよりはTK-X(10式になるのかな?)の方が使い出があるだろうっていう防衛省=陸自の考えはわかるんだけどなぁ・・・・この戦車も無理矢理高機能詰め込みすぎで冗長性の無い戦車になりそうで心配だ。 |
八王子の白豚 2009/10/04 20:57 |
↑確かにシロブタ並みの知識だね(笑) |
クロブタ 2009/10/09 12:23 |
うわ、素人丸出し。軍事ジャーナリスト? ご冗談は止めて下さいな。 |
過去 2009/10/12 00:38 |
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