亡くなった軍事評論家の江畑謙介氏について、民主党の衆院議員がブログで「自民寄りだった」と発言したところ、ブログが大炎上した。しかし、議員は「撤回やお詫び」を拒否、その発言に理解を示す専門家も出ている。
江畑謙介氏と言えば、1991年の湾岸戦争で鮮烈にお茶の間デビューを果たした。NHKに連日出演し、兵器や戦略について日本人離れした詳細な解説ぶりに、新鮮な驚きを持って聞いた人も多いに違いない。独特の髪型も話題になった。
その豊富な知識は、上智大生時代からの雑誌投稿やイギリスの軍事専門誌「ジェーン」の日本特派員などを通じて培ってきたものだ。米軍のアフガニスタン攻撃(2001年)やイラク戦争(03年)でも活躍し、著書は多数に上る。著名になってからは、政府の委員をも務めていた。
こうした経緯から、政治色は薄く中立的との見方もある。同じ専門分野で江畑氏をよく知っているという民主党の首藤信彦衆院議員は、自らのブログで09年10月12日、当初はそうだったと書いた。ところが、10年ほど前から江畑氏が自民党寄りになり、政府見解の応援みたいなことをしたり、同党のPRイベントに出たりするようになったというのだ。
さらに、江畑さんについて、軍事専門誌に頼った活動を行い、現場に足を運ばずに兵器の切り口で論じる日本だけの特異な評論家ともした。総じて辛口の発言だが、日本では高いレベルの情報提供だったとして、その死を悼んでいる。
これに対し、ブログには、批判的なコメントが1100件以上も殺到し、炎上状態になった。そこでは、江畑氏はむしろ中立だった、亡くなった人に対して失礼、といった書き込みが多い。
これに対し、首藤議員本人が、取材に応じ、ブログのエントリーを撤回することも、お詫びをすることもないことを明らかにした。その理由について、こう説明する。
「この分野に関係ない人が、内容を曲解して書いているんだと思います。現実を知らない人の話ですよ。イラク戦争のときも1日5000件来ましたが、同じような人が同じようなキーワードで書いているのでしょう」
もっとも、首藤信彦議員は、江畑謙介氏が置かれた状況にも理解を示す。
「どこの国でも、軍事専門家は、軍人や戦場の経験者、軍事産業の従事者、政府顧問がなっています。しかし、日本では、こうした人たちは話すことが少ない。だから、評論家はバーチャルになってしまうということです。卑しめているのではなく、この世界の難しさを同情してブログを書きました」
実際の江畑氏は、どうだったのか。妻の裕美子さんは、取材に対し、自民寄りとの指摘について次のように語る。
「主人に思想はあったと思いますが、まったくどちら寄りということはないですね。政府の委員を引き受けますので、中立でないといけません。委員会では自民党の政治家の方とも親しくしていましたが、主人は政治家があまり好きでなく付き合いを避けていた方なんです。ブレーンになるなど政治に首を突っ込んだこともありません。仕事でも、中立的な解説を心がけていました」
また、現場を知らないとの指摘については、こう反論する。
「若いころは海外に取材に出かけていましたが、ここ数年は体調が思わしくなく、出られませんでした。しかし、そうしない方が、外から客観的に見ることができますし、情報も入りやすくなります。主人は、ジャーナリストと申しておらず、評論家として客観的に分析するのが仕事でした。理工学部出身なので、飛行機の性能などメカニックな形の評論を得意としていたわけです」
一方、専門家には、首藤氏の議論にも理解を示す向きがある。
軍事評論家の田岡俊次氏は、こうコメントを寄せている。
「江畑氏は本来、政治色がなく、技術的に精密でデータの豊富な記事を書かれ、感服することも多かった。ただ、首藤代議士のような中東・アフガニスタン問題の専門家から見れば、米国のアフガン戦争、イラク戦争などに関する江畑氏の論評には得心のいかない点が少なくなかったのもうなずける。首都を取ったから戦争はアメリカの勝利で、その後、治安維持に苦労した、という江畑氏の論評には私も首を傾げた。戦争は総合的なもので、首都を取っても負けた例は多い。ソ連のアフガン侵攻は初日に首都カブールを制圧したし、日中戦争でも日本は首都南京を攻略したが、戦争には勝てなかった。江畑氏は晩年、外務省等の政府の委員を委嘱されることが多かったためか、『米軍再編』などの著書もよく調べてはあるのだが、沖縄などの基地返還の可能性について否定的結論が多く、実際には米側がその後返還を申し出たため、食い違いが表面化したこともある。江畑氏の記事、論評はあくまで理科的であり、社会科的(歴史、民族性、政治、経済など)な観点で戦争を見る首藤代議士は不満だったのだろう。実際には、理科、社会の両面からの観察が必要なのだ」
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