「我々をまた戦争に引きずり込むな」「広島の怒りをなめるな」「日本の核武装をゆるさんぞ」―― 原爆の日の8月6日、広島市中区・原爆ドーム前で約300人以上のデモ隊が田母神俊雄元航空幕僚長の講演に講義するためシュプレヒコールをあげた。演題は「ヒロシマの平和を疑う!」。原爆ドームから直線距離で僅か150メートルのホテル「メルパルク広島」の6階「平成の間」で講演会は開かれた。
原爆ドーム前で行われたデモの様子(撮影すべて山本宏樹)
2020年までに核兵器廃絶を目指す「2020ビジョン」を進める広島市の秋葉忠利市長をはじめ、麻生太郎首相、民主党の鳩山由紀夫代表らも同日「平和記念式」や会見などで非核を訴えた。
講演する田母神氏
核保有論者と言われる田母神氏の講演会開催が明らかになったとき、「被爆者や遺族の感情を逆撫でする」と、秋葉市長や被爆者団体が連名で日程変更の抗議文を送るなどしたが、主催者側は「表現の自由」として応じず、地元の新聞に「予定通り8月6日に開催いたします」と意見広告を出すほどであった。
開演前の講演会場は1300人の聴衆で溢れかえっていたが、静かだった。しかし、席の最前列に警備担当のスタッフが数人間隔で座り、何人ものSPのいる講演会は「何か起きそうな」物々しい雰囲気だった。
講演に先立ち、田母神氏と聴衆は、国旗に向かい「君が代」を斉唱し、黙とう。冒頭、「危険人物の田母神です」と聴衆の笑いをとった田母神氏。時たまジョークを挟みながら、2時間にわたり、自論を展開した。
「私は危ないヤツだとよく言われますけれども、本当にいい人です私は」本人がそう言う通り、物腰は柔らかい。
だが、話し出すと止まらない。「核兵器の廃絶は即平和には繋がらない。広島市は2020年までに(核兵器廃絶)と言ってるが、核が廃絶されることは絶対ない」という。
広島市長のスピーチによく出てくる造語「オバマジョリティー」は、プラハの演説で核廃絶を訴えたオバマ米大統領と思いを共にする多数派(マジョリティー)との意味だが、田母神氏は「日本の総理大臣以外の各国のリーダーが、自分の国が損失を被るようなことを言うことは絶対にない。アメリカが核廃絶に向け努力すると言っているのは、それによってアメリカの相対的な力が上がるから」と、市長の考えを真っ向から否定した。
氏は続ける、「普通の国の政治リーダーは核武装した方がより安全と考えている。核攻撃を抑止できるのは核兵器しかない。核攻撃をするために持つのではなくて、守るために持つわけです。核兵器は戦争を抑制する効果がある」「日本が世界の大国として生きるのであれば核武装を追求すべきではないか。その方が核攻撃を受けません」「『日本は唯一の被爆国だから核武装すべきではない』という人がいるが、これは論理がおかしい。日本は唯一の被爆国だから三度目の核攻撃を受けないために、核武装すべきだというのが普通の考えだと思います」。
2時間喋り尽くした田母神氏は、入場時と同じく日の丸に一礼し、会場を後にした。心配されたトラブルもなく、講演会は無事に幕を閉じた。
講演後の主催者の会見
その後、主催者側の会見が開かれ、「日本会議」広島の中尾建三理事長は「私自身も被爆者。今日が祈りの日であることに違いはないが、再び被爆者を生まない方法を考えることも意義がある」と述べた。